題詠100首選歌集(その24)

つい数日前には満開だった桜だが、いつの間にか緑が増えた。まさに「花の命は短くて」だ。


     選歌集・その24


002:一日(225〜249)
(こおなまぬがな) ホイップのように洗顔泡立てて今日一日をむりに終わらす
(やすたけまり) ペットボトルロケット型の空洞を晴れた一日(ひとひ)のまんなかにおく
(田丸まひる) 乳白の花になりたいあの肩にふりそそぎたい終の一日
(ゆき)ひそやかにうす紫のボディージェル乳房にぬりて終える一日
(迦里迦) 神隠しにあうても知らぬ己さへ知らぬ独り居一日(ひとひ)が消ゆる
(原 梓)凪のごとき一日なれども来るべき風雨の気配つばくらめ告ぐ
(斗南まこと) 穏やかな眠りであれと願いつつあのしあわせな一日(ひとひ)を抱(いだ)く
(木下一)『何も無い一日なんてないだろ』と呟く以外何にも無い日
007:ランチ(186〜210)
(やすまる)平日の昼は食べきれない量のランチセットとうわさとぐちと
(七十路ばば独り言)これをしもランチと呼ぶか夕食の残りを添えて一人の茶漬け
(萱野芙蓉) ピクニックランチ抜け出す約束もなにやらだるい苺も飽きた
(ゆき)ラザニアの熱さがなぜかうれしくてうふっと笑う一人のランチ
(さと) ランチタイム笑み浮かべ向かい合う二人ほのぼのと嘘吐き通す
008:飾(178〜202)
(沼尻つた子) まだ吾に囲むテーブルありし日のケーキを飾りしサンタのピック
(こはく)やさしさの意図を知らせぬ陽の中であなたは飾りをそっとほどいた
(萱野芙蓉) 飾り窓に生きた猫ゐてゆふやみに隠したい顔つぶさに見てる
(須藤歩実)目を開けて死んだウサギを飾るため卒園式の花束を解く
(文月育葉)鮮やかな春の予感を指先に飾るつもりで選ぶマニキュア
(ワンコ山田)隣室の満艦飾のベランダと同じ風受けわたしが渇く
(ゆき)胸の奥きらめくピアス打つごとくまひるまひとりめくる装飾樂句(カデンツァ)
(やすまる)まっすぐにあなたがわたしをみてたこと 明るい朝は出窓に飾る
021:くちばし(101〜125)
(村木美月) 傷つけるために隠したくちばしでついばむものはあくまで苦い
(花夢) くちばしでつついてあなたを起こすとき前世をすこし思い出します
(萱野芙蓉) くちばしを持つものたちの語らひに弾かれ歌ふしかない湖畔
(惠無) 「あのころはガキだったよ」とくちばしる入学式の黄色いぼうし
024:天ぷら(76〜100)
(新田瑛)天ぷらの衣ぐらいの確かさで剥がれずにいる君への想い
(秋月あまね) 天ぷらは驟雨のごとき音立ててごめんなさいの機会を挫く
(イマイ)溜め息をついてばかりの一日で紫蘇の天ぷらはべたついている
(空色ぴりか)背を向けたまま天ぷらを揚げつづけこうして冬がすぎさっていた
032:世界(51〜75)
ひぐらしひなつ)最初から飽きてそれでも午後中をダーツの的にする世界地図
(音波)この駅が世界のすべてだったことがある桜がまた咲いてる
(中村成志) てのひらの中のカップに浮かぶ波 ごらん 世界はこんなに丸い
(萱野芙蓉) わがままを黄色く咲かせ繁茂する彼女は世界の中心にゐる
(新田瑛) 太陽が沈む時には取り込んであげるあなたの小さな世界
044:わさび(27〜51)
(畠山拓郎)ですますに変化をしたりつんとくるわさびのような君のくちびる
(髭彦)安曇野にわさび田訪ね定年の春楽しまむ白き花愛で
(ふみまろ) 本当のわさびの味は色褪せた写真の母が教えてくれた
072:瀬戸(1〜25)
(みずき) 玻璃ごしの瀬戸の人形瞬きて旅のをはりの疲れ解しぬ
(夏実麦太朗)右側に朽ちたドライブインがあり左を見れば瀬戸の島々
(八朔) このごろが瀬戸際らしく詠む歌は引くことよりも足すことばかり 
(minto) 懐かしき瀬戸の花嫁など歌ひ皆で祝ひぬ結婚の日に
073:マスク(1〜25)
(梅田啓子) 冬空にマスク一つが干されをり独り居好みし父に似てきて
(チッピッピ) 花粉症立体マスクの人が増えカラス天狗が街へ降り立つ
075:おまけ(1〜25)
(みずき)失恋の春に凭れて凝る貌(かほ)おまけに雨の降りてぼろぼろ
(小早川忠義) キヤラメルのおまけはバスか飛行機かセロフアン剥がす子の手の回る
(マトイテイ)夏の日に貰ったおまけは境内の木陰で落としたアイスキャンディー
(ジテンふみお) 母に聞く一字は父の名前からもう一文字はおまけらしいと