題詠100首選歌集(その71)

        選歌集・その71


031:てっぺん(203〜227)
(小林ちい) 別れ際そっと頭のてっぺんにキスしてくれる優しい他人
(佐山みはる)てつぺんにポンポンついた帽子ふたつ木枯らしの窓をすぎて行きたり
039:広(179〜203)
(しおり)無防備に眠る貴方の広き背に付けてやりたし不実の証
(ちょろ玉) 学校が終われば広場に駆け出してサッカーしてた頃の青空
(ろくもじ)いつまでもシングルベッドの広い部屋 あなたの指輪があたしを見てる
(kei)夕焼けに何も注がぬ方がいい広口びんの中には孤独
(今泉洋子) いつまでも生きざるゆゑに広沢の池の面(も)の月ほうと眺むる
(内田かおり)モノトーンの幅広の服着こなして振り向く人は秋の顔する
040:すみれ(179〜203) 
(斉藤そよ)空ばかりみてるね九月 四月にはすみればかりを見ていた野原
(kei)ぶらんこを大きく漕いですみれ色の私の空に近づいていく
(扱丈博)燃えつきたすみれの色の夜が来てあかるい店で壜詰を買う
(内田かおり)春光を集めし甘き蜜のごと野辺のすみれの揺れて輝く
042:クリック(176〜200)
(小林ちい)送信の文字をクリックする度に私の欠片も届けてほしい
(睡蓮。)君の名をクリックしたら画面から出てきてくれる?こんな夜でも
(村本希理子) あまだれ の やうなクリック 音 を立てき み はみな み の島を呼びだす
(今泉洋子) クリックをすればメールは届くけど秋は優しい手紙にしやう 
048:逢(154〜178)
(斗南まこと)「逢いたい」と書いたメールは届かない夜明けの夢に満ちるさみしさ
月夜野兎) 忍ばれし逢瀬重ねた窓の外ナイフのような月が見ていた
(近藤かすみ) 逢ふときを待ちつつ咲(ひら)く時計草そこだけゆつくり夏の暮れゆく
(村本希理子)みみたぶをぬらす雨粒ふたつみつ逢ひたいひとのゐないしあはせ
051:言い訳(152〜176)
(ゆふ) 言い訳をしないと決めたあの日から やさしくなれたそんなきがする
(小林ちい) 笑っちゃうくらいに下手な言い訳をあなたの膝でまた聞いている
(睡蓮。) 遅くても許してしまう言い訳は「大きな月に見とれてたから」
(内田かおり)雨降りを言い訳にして閉じ籠もる耳に沁みゆく雨音がある
065:選挙(126〜152)
(お気楽堂)学校の睡蓮池の牛蛙探すチャンスだ選挙に行こう
(おっ)寝たきりの祖父のもとにも来週の市長選挙の知らせが届く
(近藤かすみ)選挙あれば夫婦の顔してわたしたち幸せさうに投票へ行く
067:フルート(127〜151)
(Re:)フルートが吹けるといえばおしとやかな女に見えると思ってました
(sora)フルートに添えたる指の細きこと言葉にしてはならぬと思つた
(桑原憂太郎)背を屈めフルートを吹く女生徒のA音わづかに上づりしまま
088:編(77〜104)
(五十嵐きよみ)父親のゴルフ雑誌のそこだけは楽しみに読む編集後記
(酒井景二朗)混迷の編輯會議拔け出して見上げた空にオリオンが立つ
(都季) ため息も見上げた空も編みこんで夜の帳はすとんと落ちる
090:長(77〜103)
(春待)長袖で隠したままの掌に君にもらった指輪が眠る
(五十嵐きよみ) 水に濡れ乾かすたびにふくらんだ潮の香のする『長いお別れ』
(流水) 底抜けた砂時計いつも空っぽで長の別れの後(あと)の沈黙