題詠100首選歌集(その35)

           選歌集・その35

009:程(159〜183)
(やまみん)寂しさも この程度なら大丈夫 熱帯夜にはひとりで眠る
(新藤ゆゆ)泣く程のことじゃなかった 陽のあたる右肩だけが褪せたTシャツ
012:眉(157〜181)
(嶋田さくらこ)知られたくないことだらけ女子トイレでは眉尻を描き足している
017:従(127〜151)
(秋)群衆に従えば夏過ぎ去りて拾い忘れた硬式ボール
(桑原憂太郎)新型のうつの要素を従へて営業途中のスタバに入る
028:脂(101〜125)
(なまにく)二の腕に詰まってるのは脂肪ではなくて怠惰と欺瞞と甘え
030:敗(102〜126)
(音波)胸元に膝を抱えて寝転んだ いま敗北は蜜の味する
(フユ)敗戦後イチゴを育ててきた人と、この青空によく映える赤
(たえなかすず)大仰にピースぼくらは失敗を気づくはずないバニラのほっぺ
(やや)この方が自然なんだと言い聞かせ猫バスに乗る敗北の夜
061:企(51〜75) ナシ
062:軸(51〜75)
(七十路ばばの独り言)自転軸傾く地球をふと思うなす事総て不首尾なこの日
083:邪(26〜50) 
(円)そのほかはすべて邪推となるゆえにストローだけが踊るテーブル
(コバライチ*キコ)邪な心がすいと顔をだす たとへば青き海眺めいて
(柳めぐみ)ひまわりを薬罐に刺して8月はわが家を邪宗門と名付ける
084:西洋(26〜50)
(アンタレス)太平洋大西洋と書いてみて思わず気ずく太と大の差
086:片(26〜50)
(佐竹弓彦)片足という表現にこんらんし百足は靴を履く手を止める
(東 徹也)夕暮れの片方だけを置き去りに終幕へゆく時のシナリオ
(アンタレス)寒強き渋川に舞う一片の雪と見違う美しき風花
(熊野ぱく)酔いどれてガラスの靴の片方を失い探す夜の12時
(円)夜はただ薄まるばかり銀の匙押し潰されるゼリーの欠片