題詠100首選歌集(その31)

         選歌集・その31


007:別(127〜151)
(柳原恵津子)カメラ屋に別売りレンズ並びおりひとつひとつが位相を帯びて
真魚)別人のふりして素知らぬ顔をして同じ車両に前夫は乗りぬ
014:更(102〜126)
(牧童)またひとつ色を失い更ける夜に 芒ばかりが揺れてきらめく
(白亜)母の手に淡い海を広げゆくインド更紗のやわらかき皺
(ichiei)おむかいの更地に分けてやりましょうたんぽぽ棉毛三日分ほど
(星乃咲月)息を吐き窓に残したラブレター 誰のものにもならない夜更け
(睡蓮。)トラウマを更新させる同窓会現在(いま)の幸せ見せつけに行く
016:仕事(102〜126)
今泉洋子)よき仕事して柿右衛門逝きませり技を伝へて柞の木植ゑて
(久野はすみ)百の歌すべてをうたい終えるまでもののけたちは待つのが仕事
026:期(77〜101)
(しほ)賞味期限か消費期限かたしかめてホテルの小さき冷蔵庫閉づ
(音波)明け方にひとりで耳を澄ませればひかりの満ちてくる間氷期
(村木美月)秋までの期間限定恋だから花火みたいに綺麗に散らす
029:逃(78〜102)
(村木美月)追うたびに逃げる幸せ「どうして?」と泣いた彼女はいつかの私
061:獣(51〜75)
佐藤紀子)獣(けだもの)の目をして息のあらあらと仔猫が庭の駒鳥を見る
062:氏(51〜75)
(畠山拓郎)初代なる野武士のような祖父逝きて平氏のように公家を真似たり
佐藤紀子) 日本で一番多き氏の〈佐藤〉 わが姓として五十年経つ
(kei)氏素性包み隠さず千年の月の明かりに照らされている
(白亜)木芽月 人影あはき窓口で画数多き氏名を記す
(円)氏神の記憶はすでに遠くなりわたしは庭の木々ばかり見る
065:投(51〜75)
(青野ことり)漣もたたぬ川面に投げ入れたきょうの鬱憤泡立っている
091:鯨(26〜50)
(ひじり純子)大海を泳ぐ鯨は目印がなくても道に迷わないのか
(はぜ子)かなしみの鯨がひとりにならぬよう海は大きくただ広く在る
092:局(26〜50)
(はぼき)旅先で郵便局に立ち寄ればお国訛りの日常があり
(流川透明)携帯は海に捨てたわ旅先の郵便局で犬を撫でたわ
(コバライチ*キコ)郵便局の角を曲がればこの秋も金木犀の香の流れくる