題詠100首選歌集(その16)

         選歌集・その16


045:桑(26〜50)
(蒼鋏)ヘルシアも黒ウーロンも桑の葉も むかえ討つわが中性脂肪
(お気楽堂)夕凪の海を見下ろし仏桑花ただ粛々とひと日を閉じる
(蓮野 唯)「桑原と言えば雷落ちないの」言われた僕にときめき落ちた
047:持(26〜50)
(原田 町)人生の残り時間と手持ち金どうにかバランス取れてはいるが
(只野ハル)大量の持てないほどの思い出を棄ててしまってひとり行く路
(中西なおみ)持ち主を思い出せずに寄る風に歯軋りならす夜のブランコ
(五十嵐きよみ)持ちきれぬものまで欲しがらなくていい両手はいつも自由でいたい
佐藤紀子)やさしさを素直に出せる少年がスーツケースを持ちてくれたり
(廣珍堂)タンポポを一輪持って歩くひと今日の時間はゆつくりと過ぐ
078:棚(1〜25)
(お気楽堂)たっぷりと水を吸い込むおおぶりのタオルばかりを棚にそろえる
081:網(1〜25)
(葵の助)網棚にわざと忘れた明日までに固めなければいけない気持ち
082:チェック(1〜25)
(文乃)400円で買える幸せ見つけたよパステルカラーのチェックの布巾
(梅田啓子)みずいろのギンガム・チェックのスカートを縫う夏休み 恋を知らずに
083:射(1〜25)
(美穂)あの人が「その服いいね」と言うほどの黄緑色に陽の射す木陰
(こはぎ)射抜かれて穴が空いたからこんなにも足りない胸に風ばかり吹く
(映子)射抜かれた気持ち抱えてひとりきり馴染めぬ春の真っ赤なポスト
(はこべ)射すひかり細く強きがカーテンの間をとおり朝をつたえる
(お気楽堂)抽斗にピンクのルージュ放り込み西日射し込む部屋におさらば
084:皇(1〜25)
(天野うずめ)皇居っていったいどんなとこだろう?木村屋のあんぱんもぐもぐ食べる
(文乃)若菜摘む皇子の優しさ千年の時を経てなお歌に残れり
085:遥(1〜25)
(秋月あまね)新宿は遥かな昔 忌まわしい記憶とともに我が内にある
(梅田啓子)遥かなる昔のようなりつい昨日のことのようなり 人恋いし日々
086:魅(1〜26)
(紫苑)魑魅魍魎めきたるボッシュの群衆のいづれかひとり我にやあらむ
(キョースケ)きらきらなフルートの音に魅せられてきみに出会えた春の陽だまり
090:布(1〜25)
(天野うずめ)ゆっくりと羽毛布団を出した夜 このまま恋をしていいですか?
(紫苑)海の辺をそぞろ歩けばうちひさす宮古上布に風のたはぶる
(美穂)布張りのソファーに浅く腰掛ける初めて娘が連れてきたひと
(遥)思い出の布ありったけはぎ合わせ娘に贈るウェディングキルト
(文乃)蹴飛ばした布団かけ直しかけ直し日々重ねてゆく親子の時間