秀歌選その1と多少の説明

 数日前から申し上げていたように、題詠100首の「秀歌選」に手を付けている。まだ、私自身、そのペースや選歌のレベルがつかめずにいるのだが、手はじめに第1回目のものを載せてみようと思い整理してみた。去年から申し上げているように、全く私の独断と偏見に基づく勝手、かつ、失礼な振舞いだということは重々承知しているのだが、全くプライベートな勝手な試みということでお許し頂きたい。
 なお、先日も書いたように、去年のような「過去ログ」という便利な単位がないので、個別の題に当たらざるを得ず、しかもそれが毎日変わるわけだから、フォローは少々厄介である。毎回全部の題に当るのも煩瑣なので、ある程度作品が溜まった題を気の向くままに選んで、選歌して行こうかと思っている。題の次に書いてある数字は、主宰者のブログにトラックバックの件数として表示されている数字を借用したものである。
 それでは、よろしくお願い致します。失礼の段は、どうかお許し頂きたいと存じます。


 秀歌選・1


001:風(1〜80)
(栗凛) はるか先 空のかなたに吹く風は何色ですか お元気ですか
(愛観) 手のひらに届ける宛てのないことば千切って託す風に任せて
(水須ゆき子)風音に耳を立たせて雉猫は春という名の靴を視ており
(青野ことり) 風も音も光もなくてほの白く明るいばかりまどろみの夢
(佐原みつる) ゆうぐれの風にページを捲られて見たことのない夜の幕開け
(みずすまし)君住むと 風のうわさに教えられ 小さき町の駅に降り立つ
(はこべ) 浜辺には風が寄せたる貝ありて 比良の八荒春を告げおり
(ねこまた@葛城) いずこより来りていずこへ去り行くか碧き風食む弥生朔日
(黒田康之) 風邪などを召されぬようにと人肌の「春鹿」などを酔わぬほど呑む
(水都 歩) 駆け上る土手の草の香春の風卒業証書の筒投げてみる
(蝉マル)考えは堂堂めぐり噴水にときおり風ある公園のみち
(方舟)そよ風に里山の道春めきて雑木林も淡くけぶりぬ
(萱野芙蓉) 猟猟と胎内あらく音立つる針葉樹あり風産まむかも
(丹羽まゆみ)ほのあをき莟のねむる菜畑を鳥のはやさで鳴りわたる風
(ほにゃらか) しなやかに風のかたちをとらへては束のあひだをざざめける木々


002:指(1〜45)
(ねこまた@葛城) 幼子は小さき指を差し延べて春つかまえると無邪気に笑う
(新藤伊織)雨を呼ぶ六月生まれは中指のペディキュアだけが剥がれてしまう
(青野ことり) ごつい手の節くれだった指先が生む三月のお茶会の菓子
(髭彦)幾度の春の残りし指折りて数ふる吾の春を待ちをり
(佐原みつる) 親指のつけ根に触れてほんとうの言葉かどうかたしかめている


003:手紙(1〜50)
(はこべ)友の死を受け入れかねて読み返す 訃報の手紙秋風わたる
(新井蜜)きみからの手紙待ってる土曜日の午後は掃除と洗濯をする
(船坂圭之介)読まぬまま破り捨てたし遠い日の未来の僕に宛たる手紙
(春畑 茜)雨匂ふ手紙とならむ戻り橋すぎてふたたび雨は降り出す
(佐田やよい)菜の花の黄色い町にみつばちが春を香らせ手紙を運ぶ
(水都 歩)色あせた亡き父からの毛筆の手紙の誤字を我も書きおり
(五十嵐きよみ)菱形に折られた手紙をほどきゆくときめきに似てそこまで春が
(みずき) ポケットに手紙しのばせ地図のない街のポストを探しつづけぬ
(丹羽まゆみ)さくら舞ふ便箋 ありがたうとしか書けぬ手紙をまた反故にする


004:キッチン (1〜39)
(里坂季夜) 真夜中のキッチン話しかけるべきひともいなくてラム・チャイを漉す
(ねこまた@葛城) キッチンにコーヒー湧かす片手には隠れ煙草の灯火抱いて
(春畑 茜)キッチンに蛇口をひらくわれはゐて硝子に夜半のみづ音を汲む
(佐田やよい)やりきれぬ思いを切ってきざむようキッチンバサミに力をこめる
(文月万里) ひそやかにスキャットをうたう冷蔵庫ひとりの夜のキッチンに棲む
(スガユウコ) キッチンというカタカナのこそばゆさ秋刀魚を焼けばそこはお勝手
(青野ことり) ワンルームの城は大きなキッチンで湯気の向こうにビルの森影
(丹羽まゆみ)それぞれのおふくろの味もち寄りてキッチンに立つ嫁三世代


005:並(1〜34)
(丹羽まゆみ)校庭に並ぶちひさな膝小僧どの子もまろき光放てり
(水須ゆき子) 夕暮れの水は重くて父と子を並べて叱る背を撓めつつ


006: 自転車(1〜26)
(小軌みつき) 向かい風小径をぬける自転車にきっと見えないたてがみがある
(水沢遊美) 君の背を小さくつかみ自転車の荷台にすわる完熟トマト