靖国とヨン様(スペース・マガジン)

 
 引き続き、在庫一掃セールである。
 茨城県日立市に、スペース・マガジンという月刊のミニコミ誌がある。もう30年近く続いているようで、たいしたものである。ある御縁で知遇を得た司容熱子さんといううら若き(?)女性からの依頼で、今年の1月から同誌にコラムを持たせて頂いた。このような形でものを書かせて頂けるということは、欲求不満のおしゃべり好きにとっては、ありがたいことである。以下は、その第一号、今年の一月号からの転載である。同誌の御了解も頂いたので、折を見て、これからも転載して行きたいと思っている。

<愚想管見> 靖国ヨン様    西中眞二郎

 平成十二年の国勢調査によれば、わが国の六十五歳以上の人口比率は一七・四%という高率に達している。少子高齢化という大きな課題はさておき、違う視点で見ると、六十五歳という年代は第二次世界大戦の記憶を持つ最後の世代であり、戦争の記憶を持つ人は全国民の一七・四%という少数派になっている――という見方もできる。現在のわが国の政治や経済の中枢を担っている人々のほとんどが、戦争体験のない人々だということは、考えてみれば、恐ろしいことでもある。
 先日ある新聞の世論調査の結果を見ていたら、総理の靖国参拝につき肯定的評価をしている人が、七〇歳以上の人と二〇歳台の人に多いという結果が出ていた。七〇歳以上の人のことはさておき、若い世代に肯定的評価が多いということをどう考えるべきなのか。若い世代にとっては、わが国や周辺諸国を悲惨な状態に追い込んだ戦争やそれに先立つ軍国主義の激流は過去の歴史的遺物に過ぎないし、自己否定から出発した戦後のトラウマも経験していない。それだけに、良く言えば理性的に問題を捉えられる立場だと言えなくもないが、戦争を知る最後の世代の一員としては、本当に大丈夫かといった空恐ろしさも感じざるを得ない。
 話は変わるが、最近の「冬のソナタ」にはじまる「ヨン様ブーム」は、中年女性をはじめとして、かなりすさまじいものがあるようだ。「追っかけ」に苦々しい思いを持つ人も多いと思うが、橋本さんや小泉さんにも「追っかけ」がいたことを思えば、まだまだ可愛いレベルの話かも知れない。「ヨン様ブーム」を少し皮肉な目で見つつも、私は肯定的な評価もしたいと思っている。それは、民族差別の意識を持たず、「良いものは良い、好きなものは好き」という至って素朴な感情を、その根底に感じるからだ。国際化が草の根まで進んだ一つの現れだと受け取るのは、少し評価が甘過ぎるのだろうか。
 この二つの事象をどう整理したら良いのか私には判らないが、少なくとも、我々の世代とは異なる感覚の世代が誕生していることは間違いなさそうだ。それが良い方に向かうのか、悪い方に向かうのか、さまざまなしがらみを背負った古い世代の一員として、不安感を抱きつつも、彼らや彼女らに未来を託して行くしかあるまい。
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 はじめてお目に掛かります。私はご当地日立市とは全く関係のない人間ですが、編集者のお一人である司容熱子さんを存じ上げている関係から、執筆を引き受けさせて頂きました。皆様の御興味を引くようなものが書けるかどうか自信はありませんが、せっかくのご依頼なので、あまりジャンルを限定せずに、思いつくままに書き連ねて参りたいと思います。「愚想管見」というタイトルは、実は二十年ほど前、通産省の福岡通産局長をしていた頃に同局の機関誌に連載した随想のタイトルなのですが、ほかに適当なタイトルも思い浮かびませんので、再利用させて頂きます。よろしくお願い申し上げます。
<スペース・マガジン 2005年1月号所載>