題詠マラソン選歌(過去ログ31〜40)

引き続き「題詠マラソン」。過去ログ31から40までの中から選歌してみた。先日の分類で言えば、この過去ログは、とりわけポップス調やフランス料理風のもの、言い換えれば私の理解力を超えているものが多い。そうなると私には手が付けられず、その時々の気分で選ぶしかない。選んだ歌はいずれも良い歌だとは思うが、「名歌」を落している可能性も大きいし、私の理解力、判断力の乏しさを示しているような気がしないでもない。

002:色
[7162] 荻原裕幸 この朝の深いところにあるみづの色をたしかめつつ髭を剃る
003:つぼみ
[6900] 植松法子 つぼみ早やほぐれ来たるかきさらぎの丘はミモザの黄に染まりゆく
004:淡
[6635] R 指先を淡く重ねてガーベラを渡されるとき春が始まる
[7071] 白辺いづみ 淡き春がジグザグに街を駆けてきた 市ヶ谷ビルの二階には風
005:サラダ 
[6437] 秋月祐一 なにもかけずに食べるサラダの味気なさ恋人ごつこは終はりにしよう
006:時
[7394] 新田瑛 銀河時間一昨日の夢で会いましたきれいなひとはあなたでしたか
[7941] 野口あや子 もう迷うことなんてない君の手で時計の針が外されていく
008:鞄
[7499] 上澄眠 できるだけ小さい鞄を持っていく。あなたが死んだ町までの旅
009:眠
[6257] 皆瀬仁太 少しだけぐづつきてのちをさな子は春に吸はるるやうに眠りぬ
[6653] 田丸まひる眠りゆくあなたの耳の輪郭をなぞる指先 つめたいですか
010:線路
[6721] emi 遮断機が下りて迷いは打ち消され月の光が線路に満ちる
[6808] ぴいちゃん ろうせきで描いた線路に子等はなく夕陽と蝶がたわむれており
[7216] 杉山理紀 線路へだててあなたがみえてあなたからみえないままの淋しさに乗る
[7581] 三宅やよい 貨車を呼ぶ線路は右にかしぎつつ操車場まで続け蒲公英
011:都
[6336] 斉藤そよ なまえだけ先に覚えた花でした〝都忘れ〟と〝勿忘草〟と
012:メガホン
[6147] 湯山昌樹舵手(コックス)の黄色いメガホン陽に映えて声とボートは川面を渡る
013:焦
[6650]みあ 焦げついたジェラシーひとつ真っ青な空がほしくてブラウスを脱ぐ
015:友
[6661] 丹羽まゆみ 友達という曖昧な位置づけがちょっと不満な夜の帰り道
[7915] 唐津いづみ 知り合いが友達になる瞬間に鳴る鐘がある 聞こえましたか
016:たそがれ
[7118] 斉藤そよ 恋ひとつ占うためにでたらめに選ばれた樹に宿るたそがれ
021:うたた寝
[7277] 皆瀬仁太 うたた寝にさより二尾もて亡き友と語らひゐたり陽春の午後
[7860] 愛観 うたた寝の夢でいいから思い出すことはあるのと尋ねてみたい
024:チョコレート
[6417] 星桔梗 初恋の思い出苦く引き出しで渡しそびれたあのチョコレート
028:母
[6069] みずき 母の手の記憶の中に蹲る五歳の我はガラスの破片
[7671] 丹羽まゆみ 女から母へと変わる同性の眩しさ 夏の逆光のごと
033:魚
[7676] 丹羽まゆみ 無精卵抱いてしずかに滅びたい魚鱗のような雨の降る道
035:禁
[7247] 深森未青 流されてさみしさにさえ果てのあり遊泳禁止の杭の沈める
041:迷
[6410] 足立尚彦 地下鉄を出れば黙殺されそうで迷路のような古書店に入る
044:香
[7883] 武田ますみ 香辛料(スパイス)の匂いの残る指先でムハマドさんの語る身の上
048:袖
[6616] みずき 袖畳みして忘れゐし春ごろも薫風ふふむ畳紙(たたふ)開きぬ
049:ワイン
[6823] みずき 飲み交はすグラスワインにさよならを映し煙草の紅を揉み消す
[7888] 武田ますみ バスタブに今日の体をひたす時ワインレッドの思考が沈む
053:髪
[6516] 宮野友和 髪の短き少女は僕に背を向けて花屋開店の準備してゐる
057:制服
[6447] 黒田康之 川原には桜草あり制服の少女の歩く匂いのように
060:影
[6995] 村本希理子 わたしから離れたがる影踏みつけてソニータワーを見上げてをりぬ
061:じゃがいも
[6783] 舟橋剛二 スーパーの袋の底でじゃがいもがひとつ静かに芽を出している
[6849] さよこ 見晴るかす台地に真白き花さけりじゃがいも畑に人影みえず
070:曲
[7902] さゆら 年近き叔母に耳打ちされてをり曲輪のむごい恋のお話
073:額
[7283] 舟橋剛二 茅葺きの家の描かれた額の絵の中の子どもがわれを見ている
081:洗濯
[6151] 行方祐美 掌をはみ出す塊は白ばかり洗濯石鹸いつも一色
084:林
[6107] 蜂田 聞 熊避(よ)けの鈴(りん)の余韻の長々し林に凍る雪に弾かる
083:キャベツ
[7648] 舟橋剛二 明日などあてにするなと言いたげにキャベツ畑を夕陽が照らす
086:占
[6110] 蜂田 聞 空間の七割五分を占拠され君と物との隙間に暮らす
096:留守
[7616] 春畑 茜 留守電に旅立つことを告ぐる声春の終りの雨を纏える <過去ログ31〜40、敬称略>