題詠マラソン選歌(過去ログ51〜60)

数日「硬派」が続いたので、今日はモードを短歌に切り替えよう。引き続き「題詠マラソン 」、「過去ログ51〜60」から、相変わらず勝手に選んでみた。今回は、「私には良く判らないけれど、これも一つの路線なんだろうな」という気がするものが、結構多いような気もする。

008:鞄
 [11323]長沼直子 きみの手を奪った鞄とレジ袋つなぎたい手がやきもちをやく
010:線路
 [11210] 櫂未知子 あれは蒲田 線路のいつかたどり着く雨に前夫のカレーの匂ひ
011:都
 [11642] 夏瀬佐知子 都内なら翌日に着く手紙さえ絶えて久しいお元気ですか
015:友
 [10735] 小林成子 ふるさとを棄てし友にて如月の波白き海の絵葉書届く
018:教室
 [9996] 森屋めぐみ 教室は各駅停車の駅のごといつも違った風の吹く場所
 [10519] 武山千鶴 「おはやう」が言へない朝は教室の後ろのドアノブゆつくり回す
[10570] 佐藤紀子 黒板に明日の日付を書き終へて夕陽差し込む教室を出る
020:楽
 [10556] emi  三月の小さな嘘を許しつつ独楽まわす春また巡り来る
021:うたた寝
 [10778] 露稀  うたた寝のあなたの肩に寄り添って寝たふりをする冬の幸せ
 [10880] 雛鳥  うたた寝の夢の深さを知りたくて3分間の砂時計を買う
023:うさぎ
[10216] 田丸まひる 従順なうさぎがほしいちぎれ雲いくつかわたしのものにする朝
 [11286] 三宅やよい 手品師がうさぎの次に女消し光を抱いて自分も消える
026:蜘蛛
 [10544] みあ 廃墟には時間を食べる蜘蛛がおり柱の創は十三歳(じゅうさん)のまま
028:母
 [11045] ジテンふみお お互いの仏壇話に花が咲く母と義母にはぬるめのお茶を
 [11667] 今岡悦子 ほどほどで良いと思えばほどほどになれる自由よ母逝きませり
034:背中
 [11557] 里坂季夜 きみの手が触れた背中のももいろがはじけた今朝のさくらは三分
035:禁
 [10761] 落合朱美 この先は立ち入り禁止と掴む手の火照りを君に見透かされてる
037:汗
[10273] 斉藤そよ 汗かきのつららが告げるここからは春ここからはとめどなく春
044:香
[11016] 中村悦子 雨の日はたやすく輪郭揺らぐから香月泰男の画集をめくる
[11887] 橘みちよ むせかへる青き稲穂の香の記憶ふるさとの田は地震に崩えたり
048:袖
[10481] 有田里絵 気の早い半袖を買い長袖の上に重ねて待ちわびる夏
053:髪
[10118] 吉野楓子 戯言で「切るな」といったきみの手のふれることなき胸までの髪
059:十字
[10469] 丹羽まゆみ 左傾する南十字を呑み込んで冬の波濤は空までも打つ
060:影
[10470] 丹羽まゆみ 山ぼうし麦わらぼうし影ぼうしつくつくぼうし ああ夏休み
061:じゃがいも
[11889] 今泉洋子 産土にじゃがいもの花咲き初めて母のいまさぬ母の日近し
067:スーツ
[10380] 吉野楓子 はじめてのスーツは幼きさくら色 父の好みを疑はざりき
068:四
[11063] ベティ 胸元がはだける手前四つ目の釦の鍵は貴方にあげる
075:続
[11348] 丹羽まゆみ 留守電の君は己の死を知らずわずかな留守を伝え続ける
080:書
[11847] 林本ひろみ 図書館の午後にさまよう蝶ひとつ手の中に入れ空へとかえす
082:罠
[11562] 丹羽まゆみ   くちびるが愚かな本音告げる夜は罠となりたり優しささえも
090:薔薇
[11710] かすいまこと  一本の薔薇を残してあの人は わざと明るく手術に向かう