「東洋のスイス」が原点(スペース・マガジン)

毎度お馴染みのスペース・マガジン(日立市で発行されているミニコミ誌)から。この8月号に、「戦後60年の評価」とのアンケートを依頼された。どうやら同誌の常連執筆者に依頼があったもののようである。例によって転載させて頂く。なお、8月号の「愚想管見」も近々転載しょうと思っている。


「東洋のスイス」が原点――――還暦を迎えた戦後の評価 西中眞二郎

 
  戦後の我が国は、順調な復興とその後の経済成長により、自由と民主主義を基調としつつ目覚ましい発展を見せた。一言で言えば、東西冷戦をはじめとする国際環境もプラスに寄与し、「期待を大幅に超える成功」を収めたと言っても良いだろう。
  戦後間もない頃、「東洋のスイス」になろうというのが一種の合言葉だったように記憶している。そのイメージは、①中立を基本とする平和国家 ②小粒だが高度な工業技術を持った産業国家 ③美しい国土を持った観光国家、そして、基本的には「大国を志向しない平和な住み良い国」・・・・人によって違う点はあろうが、戦後の廃墟の中で、多かれ少なかれそのようなイメージを一つの理想像として描いていたような気がする。
  我が国も世界も、その後大きく変わって来た。「東洋のスイス」それ自体は、現在我が国が置かれている状況にそぐわない面も多いとは思う。しかし、いたずらに「大国化」を志向せず「平和」を基本とするという考え方は、今後も、我々の座標軸の原点として忘れないでいたいと思う。その原点を忘れ、あるいは意図的にそれを捨てようとしている昨今の政治の流れ、そしてそれに喝采を送る人々の存在からは、極めて危険な兆候が感じられてならない。特に、最近に至って、戦争体験の風化とともに、「国粋主義視野狭窄症」が勢いを増して来ているように見えることは、何よりも怖いことだと思う。