クール・ビズ(スペース・マガジン)

 先日に引き続きスペース・マガジンから転載。以前にも書いたように、同誌に載せたものの転載については同誌編集部の御了解は頂いているものの、雑誌刊行後すぐブログに載せるのも少々憚りがあり、1月程度の間隔は置くようにしているのだが、暑さも峠を越えた後の「クールビズ」では、賞味期限切れになってしまいそうなので、今回は少し早めに転載する。もっとも、私のブログをお読みになる方の数は少ないだろうし、そもそも私の「愚想管見」を読むために同誌を購入する人もいないだろうから、その辺を気にするのは野暮な思い上がりかも知れない。なお、後になって気付いたのだが、「クール・ビズ」ではなく「クールビズ」が正しいようだが、もともと怪しげな用語だから、あえて訂正はしなかった。


[愚想管見] クール・ビズ                   西中眞二郎

  また夏が巡って来た。暑さには比較的強いと自認しているのだが、それでも背広にネクタイというスタイルで夏の日盛りに出掛けるのは、相当の難行であることは間違いない。
  このところ「クール・ビズ」なる「ノー背広、ノーネクタイ」スタイルを政府が盛んにPRしているが、その名付けのいかがわしさを別とすれば、高温多湿の日本の夏を考えると一つのアイディアだとは思う。もっとも、小泉総理のクール・ビズ姿は、誠実さ、重厚さを欠いた小泉さんのイメージを増幅させているような気がしないでもないが。
  思い起こすと、三十年近く前の大平内閣の頃、「省エネルック」なる半袖背広を政府が鳴り物入りでPRしたことがあった。大平総理と田中六助通産大臣が、柄にもなくポーズをとって、照れくさそうにモデルになった新聞写真を見た記憶がある。言い出しっぺの通産省の幹部は、強制かどうかは知らないが、軒並みその省エネルックを買わされたようだ。当時私は内閣法制局に出向していたのだが、通産省からサービスの積りかその購入を勧められ、一着購入に及んだ。電車に乗ると周囲の乗客にジロジロ見られるような気がしたし、「役人の制服だな」と友人にからかわれたりして、少々気後れしたのも事実だが、なかなか涼しく快適で、結構夏場は愛用していた。もうすっかり古びてしまったが、今でもたまに引っ掛けて出掛けることもある。
  愛用したとは書いたものの、難点は、そのスタイルは別として、収納スペースが少ないことである。私の場合、背広のポケットには、財布、手帳、定期入れ、眼鏡、ボールペン、ハンカチ、煙草にライター、それに最近では時として携帯電話が入っているのが普通だが、省エネ半袖背広にもそれなりにポケットが付いてはいるものの、これらを全部入れるにはいささかスペース不足である。そこで結局小さな鞄を提げるか、ポシェットを腰に付けるかということになってしまう。元来荷物を持つのは嫌いな方だし、ポシェットもちゃんとしたお出掛けにはミスマッチである。それにそもそもポシェットという奴、目立つ割には収納容量が意外に小さい。それが私にとって、省エネ背広の最大の難点だった。
  男性がなぜ背広を着るかという有力な理由の一つは、「ポケットが沢山あり、それで大体の小物は間に合うからだ」ということではないかと思う。言い換えれば、女性のハンドバッグの機能を背広が果たしているということだと思う。新しいクール・ビズの場合、その点はどうなのだろう。男も「ハンドバッグ」を持つようになれば問題はないのかも知れないが、それにはかなりの「精神革命」が必要だろう。少なくとも、私の場合はそうである。となると、クール・ビズの定着化を図るためには、ポケットを沢山付ける必要がある。普通の背広のような内ポケットは無理だろうから、両胸、両脇に大きなポケットを付け、それにちゃんとボタンかファスナーで蓋ができるようにする必要があるのではないか。もっとも、ズボンの尻ポケットに、財布や携帯電話を入れ、それを誇らしげに見せびらかして(?)いる人も良く見受けるが、落とすのではないか、スリにやられるのではないか等々、どうにも見ていて不安である。となると、やはり上着に頼らざるを得ないと思うのだが、それがクール・ビズの軽快なスタイルと両立するかどうかは疑問かも知れない。

<スペース・マガジン8月号所載>