題詠マラソン秀歌選(過去ログ111〜120)
約20日ぶりの題詠マラソン秀歌選である。ここ暫くは、過去ログ10回分が貯まるのに1ヶ月前後かかっていたが、今回は約20日ということは、投稿のペースが少し上がったということなのだろう。比較的若い番号のお題の歌が多いということは、満を持しておられたランナーがおもむろに出走されたということなのだろうか。毎度の前置きは省略する。
題詠マラソン秀歌選(過去ログ111〜120)
002:色 ハル きみどりの色鉛筆で河岸の水を描けばそこからが夏
006:時 車前子 真夜中の開かぬ窓に映りこむ左回りに時刻む針
008:鞄 梢子 いくつかのパンフレットを入れたまま鞄も今朝は旅の抜け殻
010:線路 江村彩 廃駅の線路つめたく眼前を通過するべし音のみの貨車
012:メガホン まっちゃ メガホンにて叫びたきこと何もなく窓辺にうたふ「夏の思ひ出」
015:友 高松凛 友達のままでよかった ぶらぶらと足を揺らしてアイスを食べる
016:たそがれ 梢子 まな板に鯵の頭をおさえつけカーテン越しにたそがれも見ず
016:たそがれ 春村蓬 それぞれの家路を急ぐたそがれに赤信号を渡りくる風
020:楽 水野華也子 月光のさしくる部屋に朝顔の楽譜のような影絵がゆらぐ
020:楽 倭をぐな のんこうの長次郎のと論じつつ海苔茶漬食ふこの楽茶碗
022:弓 邪夢 弓張りの月弾けども音はせず威嚇ばかりの闇に戸惑う
022:弓 花山周子 弓ほどに張りし湖面にトンボの尾触れれば風の立ち初むるらし
022:弓 春村蓬 放たれた矢を追ひかける弓音の余韻のなかに雲を見てゐる
024:チョコレート 車前子 チョコレート割って大きな片割れを与えし日より姉として生く
028:母 井上佳香 子が母を捨てに行くとう伝説を二、三聴きたり午後の講義に
028:母 中山博史 バスのなか紙折る母の指先に幼き眼じつと動かず
028:母 河内蜜柑 母二人の生見届けし故郷の川は静けき内海に入る
030:橋 水沢あけび 潮風に揺れない橋を渡りつつ憶測ばかり軋む夕暮れ
030:橋 美濃和哥 カレル橋首飾り売る若者のくびすじ青きタトゥーに染まる
032:乾電池 しのざき香澄 乾電池外したままの置時計 風を待つためだけにある部屋
033:魚 究峰 トロ箱の氷の中で朝市の魚は青き空を見ており
035:禁 河内蜜柑 病得たる夫の日常生活に禁という字のいくつも並ぶ
040:おとうと 星川孝 異国より未だ還らぬおとうとのクラリネットは錆びつきしまま
043:馬 中山博史 コンビニに競馬新聞買ひし人酒の匂ひを残してゆけり
044:香 佐藤羽美 矢印に従ってゆく香典を少年ジャンプに差し込んだまま
047:大和 瀧村小奈生 駅の名に大和とついて県境を越えた電車がいとおしくなる
048:袖 キタダヒロヒコ はさはさとワイシヤツかはくヴエランダに秋はましろき袖とほしをり
052:螺旋 みうらしんじ メビウスの輪だった ぼくがひたすらに昇りつづけた螺旋階段
053:髪 中山博史 断頭に差し出すごとく首を伸べさからひもせず髪洗わせる
053:髪 枝川由佳 今日こそはちゃんと謝るいつもより髪の分け目を朝日の側に
053:髪 星桔梗 少しだけ髪を切っても気付かないあなたと視線合わさぬ食事
054:靴下 睡蓮。 靴下の穴が気になり欲しかった靴の試着をあきらめ過ぎる
060:影 星桔梗 影法師追って遊んで追い付けず追い付けぬまま夕陽が沈む
065:城 美濃和哥 城の街に来たりてみれば悄然とカフカ歩みし石畳あり
067:スーツ 海神いさな。 平凡なオトナになってゆく君のスーツの第二ボタンをちぎる
068:四 コメット 残された左目にひかりあるうちに四季折々の花を撮りに行く
069:花束 みやちせつこ 誕生日きたれば我に花束を買わんと思い花舗の前過ぐ
070:曲 櫂未知子 トーストはぱさぱさ椅子は重すぎて名曲喫茶の午後をまどろむ
072:インク 西村玲美 さみどりのインクの滲む絵葉書は雨が降りたることのみ伝ふ
073:額 藤苑子 これがあのバンダナ巻きし額かと若き息子のデスマスク抱く
074:麻酔 三宅やよい 数かぞふ麻酔の痺れ仰向けに夕焼け雲のちぎれて染まる
075:続 三宅やよい 石柱に梵字あかあか刻み込む続柄なき女の寄進
075:続 和良珠子 ためらわず続柄に「妻」と大書する 飼われることに慣れたふりして
076:リズム 櫂未知子 大根を刻むリズムに慣れなくて気休めに見る六本木ヒルズ
080:書 KADESH 僕の字は書道教えるあなたには見せられないからメールにします
081:洗濯 久松 鳥の声蝉の鳴き声聞く朝の青空高く洗濯物干す
083:キャベツ 林ゆみ あなたには言えない昼を包み込みロールキャベツをことことと煮る
089:巻 恩田和信 僕の夢ラガービールと新聞と腹巻似合う父になりたし
090:薔薇 mamaGON 薔薇が好き黄の服が好き自己主張確かな友でありしが逝きぬ
090:薔薇 櫂未知子 絨毯の薔薇と薔薇との谷間にはむかしのひとの醤油のなごり
091:暖 水須ゆき子 暖炉には悲しい記憶があると言う男は決して襟を崩さず
094:進 みあ またひとつ巡る季節に追い抜かれ進めぬ足が地団駄をふむ
094:進 ぴいちゃん 台風の進み具合を気にしつつ帰る人待ち里芋を炊く
095:翼 藤苑子 出撃の別れに翼ふりしとふ開聞岳に雲のかかれる
095:翼 もりたともこ 飛ばしても屋根を越えない飛行機の翼破って燃やす恋文
096:留守 みあ 子ども等が帰らぬままの留守宅を守り続けて雨戸は朽ちる
099:動 橘みちよ 陵おほふ木々はさやげり深奥の古墳の鼓動つたふるごとく
099:動 住職(jusyoku) 朝食はマクドの2階、窓際で動き始める街を見ている。