題詠マラソン秀歌選(過去ログ141〜150)

題詠マラソンも、あと1週間でゴールである。最後の追い込みと見え、ペースも随分上がって来た。百人一首を作ると宣言し、秀歌選を始めた以上、いまさらギブアップするわけにも行かない。余計なことをするんじゃなかったと半ば後悔しつつも、過去ログが10個溜まるのを楽しみにしているのも事実である。それでは例によって、最終近い秀歌選としたい。なお、毎度のことながら、私の独断と偏見に基づく選歌であり、しかも多くの歌からの瞬間的な判断による選歌だということを、重ねてお断りしておきたい。このブログのタイトル通り、「無責任」な選者をどうかお赦し下さい。

  
   題詠マラソン秀歌選・過去ログ141〜150

002:色  池まさよ  くちびるに色をのせれば半夏生 鏡のなかの女が泳ぐ
005:サラダ  もとよし  サラダ巻選ぶ君見て他愛ない話題に逸らす回転寿司屋
008:鞄  池まさよ  さがしても見つからぬ鍵いつだって鞄の中はブラックホール
011:都  池まさよ  いますぐにあいたいなんて女にはオンナの都合あるというのに
014:主義  氏橋奈津子  耳を出すかたちに髪をととのえて黒いコートは着ない主義です
016:たそがれ  水島修  たそがれは十月の街襟立てて捨てられるもの数えて歩く
016:たそがれ  氏橋奈津子  県道の信号いちどに黄に変わり街は川よりたそがれはじむ
019:アラビア  堀野真実子  自動ドアがなかなか開かない文具屋にアラビアのりを買いに立ち寄る
026:蜘蛛  高瀬いつか  路地裏の蜘蛛の巣みたいな電線にカラスと夕日が絡まっている
028:母  池まさよ  母親になりそこなった夏だから中途半端な髪を束ねた
032:乾電池  もとよし  乾電池切れたふりしてひと休み背中に子供乗つけたまんま
037:汗  高瀬いつか  汗をかくグラスを指で弄び誰かを待ってるふりをしてみる
040:おとうと  かとうそのみ  おとこならつけられるはずだった名をおとうととしてこころにしまう
040:おとうと  池まさよ  おとうとのようにあなたを甘やかす夜は決まって雨の月曜
044:香  高瀬いつか  森林とファーストフードが入り混じる香り漂う昼の公園
045:パズル  池まさよ  ひとつだけ欠けたピースのまわりから崩れはじめるジグソーパズル
045:パズル  中村師  無理矢理にパズルのピース嵌め込んだような我が家のそれぞれの顔
047:大和  小野伊都子  今日だけは大和撫子気取りたい着物で君と会う日曜日
051:泣きぼくろ  古内よう子  泣きぼくろみたいな句読点を消す 立ち止まるのも飽きてしまった
053:髪  水月秋杜  雪の日は故なく寂し 熱き湯で髪を濯いでエルガーを聴く
056:松  村上きわみ  市松の模様やさしき花茣蓙にまねかれるまま座す昼下がり
060:影  杉田加代子  人影の途絶えた午後をゆるゆるとダリの時計が針を進める
060:影  倭をぐな  影武者の四五人連れて色町をああこりやこりやと浮かれ行きたや
061:じゃがいも  星川孝  唇を密かに交はす納屋ふかくじゃがいもの芽は芽吹いてをりぬ
061:じゃがいも  yuki  台所を飛び出したうちのじゃがいもが火星の周りを回っているよ
065:城  村上きわみ  憂鬱に濃淡ありてこの夜を染めるカフカの「城」のうすやみ
065:城  池まさよ  砂の城みたいに崩れ落ちていくふたりをさらう波がまたくる
066:消  笹田かなえ  火消し壷むかしがたりのかたすみに置かれながらも黒びかりする
067:スーツ  笹田かなえ  百ヶ日。スーツも秋のものに替え見覚えのある静けさといる
068:四  春村蓬  四つ足になりそこなつて両の手に重い荷物をぶらさげてをり
072:インク  村上きわみ  濃紺のことばいくつも閉じ込めてしんと黙っているインク壺
075:続  池まさよ  一晩中泳ぎ続けて知らぬ間に魚になった海岸ホテル
075:続  村上きわみ  野火続く母のうしろをついてゆく 帯の牡丹がとってもあかい
077:櫛  笹田かなえ  最初から椿油の染みた櫛わたしに出来ることはもう無い
083:キャベツ  村上きわみ  巻き深い冬のキャベツをあまくする土の時間というおだやかさ
087:計画  皆瀬仁太  海へゆく計画だけは語りつつ家族五人で銭湯へゆく
088:食  笹田かなえ  食べ物の話に終始する電話出逢ったころの逢いたさになる
092:届  福田睦美  届かない手紙を二月の雪に埋め卒業といふ儀式むかへり
096:留守  游ききあ  留守電のあなたの声を聞くために電話している夜12時半