題詠マラソン・百人一首

        題詠マラソン百人一首


001:声 高崎れい子  「ピアノのねミからラまでしか息できない」喘息少女は小声で話す
002:色 近藤かすみ  大空を見上ぐる瞳その数とおなじ数だけある空の色
003:つぼみ  高澤志帆  春のつぼみひらきはじめていつもよりおほくまはれる回転木馬
004:淡  今泉洋子   昨夜(よべ)君と酒飲みしこと嘘のごと今日は職場に淡々と会ふ
005サラダ  方舟  男手に作りしサラダそれぞれに具は大振りに千切られてあり
006:時  みあ   その時が来るまでまわれ風車こころからから空っぽのまま
007:発見  百田きりん   輝けるあすを発見したくってまるめてのぞく卒業証書
008:鞄  みやちせつこ   新しき鞄を左の手に持ちて右手で空を押し上げてみる
009:眠  上澄眠  まるまって眠りつづけてこのまんまやがて芽を出す豆になりたい
010:線路  武田ますみ 線路のない廃線の駅ひたひたと昭和という名の亡霊が来る
011:都  内田かおり  時々は都市の喧噪懐かしみ窓無き店で珈琲を飲む
012:メガホン  湯山昌樹 舵手(コックス)の黄色いメガホン陽に映えて声とボートは川面を渡る
013:焦   五十嵐仁美 言わなくて良いこと言ってしまいそう鍋の焦げつきひたすらこする
014:主義  舟橋剛二  主義主張捨てて生きゆく潔さわれにはなくて湯を沸かしおり
015:友  愛観 似たような道を歩んでいる友が少し煙たい土曜日の午後
016:たそがれ  ぴいちゃん   菜の花のゆれるホームの回送車たそがれだけを網棚に乗せ
017陸  西中眞二郎  風止むを待ちてようやく離陸せし離島空港は岬のはずれ
018:教室  笹田かなえ   階段のある教室は階段の上の方から日が暮れていく
019:アラビア  堀野真実子 自動ドアがなかなか開かない文具屋にアラビアのりを買いに立ち寄る
020:楽  嶋本ユーキ   太神楽その身を獅子へと変える祖父爪先までも神へ近づく
021:うたた寝  みにごん  葉桜に取り囲まれたうたた寝の夢の中では去年のままで
022:弓  丸井真希   弓の字の形のまんま眠ってるふりしてお尻を近づけてみる
023:うさぎ  三宅やよい 手品師がうさぎの次に女消し光を抱いて自分も消える
024:チョコレート  なかはられいこ  やくそくはもひとつあってチョコレート口に含めば角から溶ける
025:泳  岩井聡   約束の水着で君は泳ぎ出すきらめきやまぬ詩語の波間へ
026:蜘蛛  高瀬いつか 路地裏の蜘蛛の巣みたいな電線にカラスと夕日が絡まっている
027:液体  村本希理子   金属が液体として在る哀しさに水銀計は冷たく湿る
028:母  ジテンふみお お互いの仏壇話に花が咲く母と義母にはぬるめのお茶を
029:ならずもの  田丸まひる 今日だけはならずものって言われてもいいよタンポポまみれの背中
030:橋  片岡 幸乃   最終船今桟橋を離れたり霧に灯れる島に向ひて
031:盗  コメット   駆け抜けた昨夜(よべ)の嵐に盗まれて桜花(はな)は故郷の吹雪に変わる
032:乾電池  車前子 乾電池二本入れれば語りだす日曜討論この国の行方
033:魚  水須ゆき子 あたたかい海の魚のふりをする けんか別れのベッドは広い
034:背中  春畑 茜   背中にはわが子ひとりをぶらさげて光が丘の春をあゆめる
035:禁  落合朱美  この先は立ち入り禁止と掴む手の火照りを君に見透かされてる
036:探偵  前野真左子  猫追ひし探偵ごっこの記憶には独りぼっちの路地の匂ひす
037:汗  斉藤そよ 汗かきのつららが告げるここからは春ここからはとめどなく春
038:横浜  ベティ 横浜の匂いが少しする夜ですデンキブランはお嫌いですか
039:紫  織田香寿子 挫折せしこと遙かなり卒業のむすめが映える紫袴
040:おとうと  杉田加代子 夕焼けは生まれなかつたおとうととおつかいにゆくかなしさに似て
041:迷  足立尚彦 地下鉄を出れば黙殺されそうで迷路のような古書店に入る
042:官僚  里坂季夜 官僚になりきれなかった友の弾くブルーズ 氷は溶けて真夜中
043:馬  大隈信勝   変はらざる高田馬場の駅降りて半日の間を十代となる
044:香  西村玲美   初夏の海の香りに懐かしく満たされてをり自転車こげば
045:パズル  池 まさよ   ひとつだけ欠けたピースのまわりから崩れはじめるジグソーパズル
046:泥 河内 蜜柑   雲仙に夕日沈めば仕事果て畑の泥をぱたぱた払う
047:大和  小野伊都子   今日だけは大和撫子気取りたい着物で君と会う日曜日
048:袖  花山周子   曇天を描きし頃の曇天の色が袖には染みついており
049:ワイン  林 ゆみ   背を丸めワインレッドのペディキュアを塗る昼下がり 電話はこない
050:変 しのざ き香澄   もう秋がきていますよと書きはじめ明朝体にフォントを変える
051:泣きぼくろ  五十嵐きよみ   泣きぼくろ似合ってしまった気まずさに思いきり濃く眉墨を引く
052:螺旋  斉藤真伸   病棟の西に張りだす非常口春は螺旋を描いてのぼる
053:髪  星桔梗   少しだけ髪を切っても気付かないあなたと視線合わさぬ食事
054:靴下  佐原みつる   もうどこへ行く気もしない朝だけど旅行鞄に詰める靴下
055:ラーメン  茶琥チヤ子   こいさんが待つこともない法善寺ラーメン店は今日も行列
056:松  やそおとめ   京・祇園花見小路のべんがらに「松のみどり」を舞ふ手ちひさし
057:制服  皆瀬仁太   制服の女子高生をしたがへていつものやうに十月が来る
058:剣 雪之 進   朝市を仕舞えて呼子の海も凪 剣先烏賊刺つるりつるりと
059:十字  丹羽まゆみ   左傾する南十字を呑み込んで冬の波濤は空までも打つ
060:影  倭 をぐな   影武者の四五人連れて色町をああこりやこりやと浮かれ行きたや
061:じゃがいも  yuki   台所を飛び出したうちのじゃがいもが火星の周りを回っているよ
062:風邪  小倉るい   ぽつぽつの関係だから風邪という小さな嘘をカンフルにする
063:鬼  常盤義昌   雨風に毀れて顔の半ばなき鬼瓦あり 深き山路に
064:科学  船坂圭之介   みだらなることに触るるな乙女等よ桜ちらちら舞う科学祭
065:城  青野ことり   城のある町の上には川のある町につながる空が広がる
066:消  村上きわみ   送られし文を破(や)る指ほの白く夜の舞台の消え物かなし
067:スーツ  蜂田 聞   三階にスーツを着たるマネキンが五階にゆけば浴衣着ており
068:四  浜田道子   背もたれを深く倒してまどろめば四方の田より風の吹き来る
069:花束  福田睦美   オードリーの唇(くち)に憧れ街角に白き花束抱へつつ待つ
070:曲  遠野津留太   曲馬団の幼き少女の胸元の黄のコサージュの華やぐ夕べ
071:次元  屋良健一郎   異次元に迷い込みたる猫のごと三味の音する路地を彷徨う
072:インク  ピッピ   ときどきは影のインクが足りなくて赤い絵の具で伸ばす夕暮
073:額  水月 秋杜   ケージごといのちの額面記(しる)されて仔猫と子犬がじゃれあっている
074:麻酔  佐藤りえ   夜は今麻酔がきいているようで五つ先まで信号は赤
075:続  谷口純子   続くこと厭う気持ちも深層にあれど老舗の柚子味噌を買う
076:リズム  櫂未知子   大根を刻むリズムに慣れなくて気休めに見る六本木ヒルズ
077:櫛  みずき   いちまいの櫛千本の針のごと嫉妬にそそる髪を梳きたり
078:携帯  野良ゆうき   あの人は海でなくした携帯のアドレス帳に置いてきました
079:ぬいぐるみ  はぼき   ぬいぐるみ一つだけでは淋しくて二つ並べる出窓のほとり
080:書  枝川由佳   ボールペン売り場の隅の落書きのような言葉をくれる恋人
081:洗濯  ドール   赤ちゃんが生まれましたと告げるごと洗濯物はひらひら揺れる
082:罠  立花るつ   罠と知り餌に近づく雌狐の足の先から冬が近づく
083:キャベツ  葛城   春キャベツいそいそ買い来て鍋の中淡き緑をじんわり煮込む
084:林  紫峯   秋の日に光太郎もいた九十九里防風林に智恵子を捜す
085:胸騒ぎ  海神いさな。   六つとせ 無理やり起こす胸騒ぎ無傷でいられる恋はしません
086:占  大辻隆弘   竹たちはひかりなまなましく立ちて陽のあたりゐるひとところ占む
087:計画  瀧村小奈生   計画と呼べないほどの願望を養いながら年の瀬になる
088:食  秋月祐一   カワセミの観察会のことなどを小声ではなす社員食堂
089:巻  ひぐらしひなつ   巻き戻し忘れたビデオテープから終わった夜があふれはじめる
090:薔薇  mamaGON   薔薇が好き黄の服が好き自己主張確かな友でありしが逝きぬ
091:暖  荻原裕幸   暖かく母音のひびくたそがれとおもへばやがて諍ひとなる
092:届  飛鳥川いるか   黒々と各種届の贄となる「世田谷 太郎」の渡世やいかに
093:ナイフ  和良珠子   バターナイフ後ろ手に持ち一言も二言も多い男と暮らす
094:進: 中山博史   小雨降る瀬田の川面にボートゆき春刻々と進みておりぬ
095:翼  藤苑子   出撃の別れに翼ふりしとふ開聞岳に雲のかかれる
096:留守  宮沢 耳   干したての夫の布団に寝転びつ留守居顔して迎ふる夕べ
097:静  久松   ひたひたと濡れし音して車過ぐ静かに雨の降り初むらんか
098:未来  篠田 美也   秋鯖の小骨が刺さるとりあへずやり過ごしたき未来があつて
099:動  佐藤紀子   「メキシコに出張中」の札があり動物園にパンダは不在
100:マラソン  黒田康之   マラソンする女の腿に日が射して君に逢いたい休日が来る

 
 以上です。正直言ってくたびれました。コメントやお詫びは、昨日付けの「前夜祭」に若干書きましたし、一両日中に補足のコメントも「後の祭」として書いてみようかと思っています。
 御意見、御感想等、御批判やクレームを含め、皆様のコメントを首を長くしてお待ちしております。