「杳」という字の訓読み

  このブログで何回か取り上げたのだが、題詠マラソンという催しに参加して、参加者の方々の百人一首を作ったりした。そのために、3万首を超える参加作品にざっと目を通したのだが、その中で、読みの判らない漢字がある。それは、「杳」という字である。
  我々が通常(とは言っても、日常使うというわけではないが・・・)使う用法は、「杳(よう)として行方が知れない」といった用法である。また「杳い(くらい=暗い)」という読みがあることは知っていた。しかし、この字を使っている短歌約10首のうち、「暗い」では意味や読みの通りにくいものがかなりある。「・・・うつしよの根の杳きも覚ゆ」。これは、「くらき」で良いのだろう。
  そのうち、「とおい」というかなを振ってあるものが2首あった(「思い出は杳くにありて・・・」「・・・うつつに杳き松虫の声」)。また、かなは振っていないが、意味から見て「遠い」と読むらしいものが、数首あった。(「・・・制服の子を杳く記憶す」「杳き日に鈴を盗み・・・」「杳き日をうつつに暮らす・・・」)
  良く判らないのも何首かある。
  「・・・杳かに遠き日々・・・」「・・・貰いし日は杳か・・」「杳かより引き揚げられた・・・」。これらは、多分「はるか=遥か」だろうが、あるいは作者はほかの読みを考えておられるのかも知れない。
  「杳」の訓読みは「暗い」しか知らなかったので、手許にあるかなり大きな辞書を引いたり、パソコンで検索してみたりした。その結果、辞書にはなかったが、パソコンで「はるか」という読みは出て来た。これは、私にとって新発見だった。
  結局、探した限りで見当たらなかったのは、「とおい」という読み方である。これらの作品を寄せておられる方々は、かなり短歌に熟達されていると見受けられる方々である。したがって、単純な誤用だとも思えない。「杳」という字、ちょっと使ってみたくなる、なかなかニュアンスのある恰好良い字なので、辞書にはないものの短歌の世界では慣用されているものなのか、あるいは私の調べ方が不完全で、本来「遠い」という意味や読みもあるのか、御存じの方に御教示頂きたいものである。