税制についての私見

税制についての私見

 
今後の税制のあり方につき、議論が交わされているようである。素人考えではあるが、私見を一応整理してみたい。


<前提となる事項>

大きな政府か小さな政府か
 経済が大きく成長している時点では、「警察国家」としての小さな政府ということも考えられるが、円熟経済、更には高齢化社会という今後を考えると、社会保障の充実等、政府として逃げられない財政需要が大きくなって来る。また、市場経済を基本とする以上、負け組対策も講じる必要があるし、また、民間企業が「効率化」を進めれば進めるほど、政府、地方自治体等は、民間企業には任せられない「不効率」な部分を背負って行かなければならない使命が大きくなって来る。
したがって、今後の我が国を考えるとき、いやおうなしに「福祉国家」にならざるを得ず、「小さな政府」という考え方を採ることは困難だと思われる。もとより、できるだけ無駄を切り捨てて小さな国家を指向すべきことは当然だが、それには限界があり、「大になるはずのところをいかに最低限に止めるか」という方向を指向するしかあるまい。この点、現在の安易な「小さな政府至上主義」の流れには、基本的な疑問がある。
○税制の役割
これまで、かなり安易に減税が進められて来たが、今後は多かれ少なかれ増税路線を採らざるを得ないと考える。私見では、税には二つの目的があると思う。第一は、当然のことながら税収の確保である。第二は、社会的公正の確保だと思う。高額所得者や財産保有者に対する減税や、低額所得者に対する増税は、基本的には社会的公正に反するものだと思う。

<税制の考え方>
以上の前提で、今後の税制のありかたについて考えてみる。
①消費税
増税はやむを得ないと考える。以前、毎年物価が数パーセント上がる時期が続いた。消費者の立場からすれば、物価上昇も消費税アップも同じことであり、ある程度の段階的な消費税アップは、耐えられないことではない。また、「消費」は、医療費等の「好ましからざる消費」を除き、自己の欲求を充たすための社会からの受益という一面も持ち、そのために課税されることは当然だとも言えよう。
ただ、まず考慮すべきことは、①物価上昇の場合と同様に、所得面や年金面等で、消費税アップをカバーすべきだということである。また、金利上昇も、個人預金の目減りを避けるためには不可欠の要素だと思う。これらによって裏打ちされれば、私は消費税増税には賛成である。②物によって税率に差を付けるのは、理想ではあるが、現実には技術的に困難だろう。一つの私案として、最低生活に必要な消費(例えば生活保護費の水準)については非課税とすることが望ましく、例えば、国民に一定の金券を渡して、最低必要消費の全部又は一部につき、消費税分をカバーすることは考えられないか。それが可能なら、①の前提は不要になり、又は軽減される。
所得税
当然のことながら、消費税は弱者に厳しい税制である。したがって、その増税の場合は、社会的公正確保の観点からも、所得税の累進度を高める必要がある。社長がいくら有能で重要な存在だとしても、若手サラリーマンの10倍以上の収入を得る必然性はない。通常の生活を送る分には、2千万円以上の手取り年収は必要ないだろう。したがって、私見では、所得自体を規制しても良いくらいのものだと思うが、自由主義経済においてはそれは不可能な話である。
所得自体は強いもの勝ちにならざるを得ないとすれば、それをカバーするのは税制である。例えば、2千万円を超えるような年収には、懲罰的な税率を課しても良いと思う。2千万円超の所得に対しては50%、1億円超の所得に対しては90%くらいの税率(いずれも地方税込み)にしても良いとすら思う。「強いもの勝ち」にならざるを得ない社会である以上、そのくらいのことは、社会の公正のためにも必要なことだと思う。
細かいことを言えば、退職金の税制上の優遇もおかしな話である。退職金が給料の後払いだとすれば、それを在職年限に応じて年収に還元し、相応の課税をすべきだと思う。例えば、10年で1000万円の退職金のある人の場合、年収は100万円相当になるわけだから、年収100万円に相当する税率(各種控除等は既になされているのだから、控除なしの裸の金額で)で10年分の課税をするといった考え方を採っても良いのではないか。
退職金の税金が安いために、意図的に年収を下げて退職金を増やしている企業もあると聞くが、このような「不正」を許すのはおかしい。
なお、以上の議論と切り離せないのは、所得の把握であり、所得の種類による実質的な税率の差をなくすことだと思う。そのためには、納税者背番号制は必要不可欠だと思う。個人情報の保護といった視点を無視するわけではないが、公正な社会を作るためには、所得の厳正な把握は必須なものだと思う。給与所得も資産所得も株式配当も預金金利もすべて総合的に把握し、一率に課税すべきだと思う。もちろん、必要に応じてそれぞれに所要の控除制などは必要になるかも知れないが。
なお、現在の定率減税の廃止は、当然のことだと思う。定率減税は、景気対策のための緊急措置として「理屈抜き」に行われたものであり、タイミングを見て本来の税を徴収する姿に戻すことは当然である。
相続税
社会的公正という意味では、相続税の役割は大きい。現行の基礎控除5千万円というのは大き過ぎる。1千万円程度の相続でも、100万円やそこらの課税はすべきだと思う。ただ、換金困難な資産等の場合の猶予措置等は更に充実させる必要があろう。
また、現在の延納の利率は懲罰的なものだが、これはおかしい。正当な理由がある場合には、「納税者の権利」として、低い利率で延納を認めるべきだと思う。また、手続の簡素化も検討する必要があろう。私自身の体験でも、基礎控除のお蔭で納税せずに済んだ場合の最大のメリットは、税金自体の問題ではなく、手続面での煩わしさがないという点だった。
なお、細かい話ではあるが、遺産は「特定の人」が相続し、ほかの人にはその「特定の人」が金銭を与えるという「代償分割」が行われる場合もあるが、これは法的な裏付けなしに運用で行っているようである。この制度は実情に叶ったものであり、法律上も明確な位置づけがされるべきだと思う。
私の家族の体験だが、時間的な制約もあり、土地につきいったん持分による相続を行い、後で実情に即してそれをその土地に居住している親族に売却した際、売却による譲渡所得が課税された。これはおかしいと思う。相続税に加えて、当初から「代償分割」にしておけば課税されなかったはずの所得税も課税されるというのは、どう考えてもおかしい。いわば税金の二重取りだと思う。
地方税
国と地方の税収の配分については、地方に仕事と財源を移譲すべきだという原則には賛成だが、具体的な私案はない。ただ、現在の「三位一体改革」は、目下のところ、国の支出削減を中心とした辻褄合わせに過ぎず、本来のあるべき姿とはほど遠いものだと思う。
いずれにせよ、地域により税収の差が出ることは当然の結果であり、そのために国による調整は不可欠だろう。現在の個人県民税等はすべて居住地の税収になっているが、これを納税者の意向により、ほかの自治体にも一部納税できるような方策は考えられないか。例えば、私の場合、納税するようになってからは専ら東京都の税収に寄与して来たが、学校教育その他、私が世話になったのはむしろ郷里の自治体である。私が支払う都民税の一部が私の郷里に回されるということは、私にとっては極めて望ましい結果であり、自治体による税収力の格差の是正にも寄与するものと思う。かなり荒唐無稽な提案だとは承知しているが、真面目な検討に値するものだとも思う。
法人税
特にアイディアもない。税率アップも考えても良いのかも知れないが、最終的に収入が帰属する個人の税率を上げれば、それで相当程度はカバーされるものとも考えられるので、あえて税率アップを考える必要はないのかも知れない。ただ、赤字企業でも社会から受益はしているので、低率の法人税を賦課するという考えも真剣に検討されるべきではないか。

 以上、こなれていない思い付きに近いものもあるが、税制に対する私見をまとめてみた。