所得格差と税制

 改革の名の下に、弱肉強食の風潮が強まり、所得格差、地域格差等さまざまな格差が激しくなって来たことが、かねがね気になっていた。その上、その被害者であるはずの人々がそれに気付かず、むしろ「改革者」に拍手を送っていることが不思議でならなかったのだが、ライブドア事件をひとつの契機として、「格差」が大きな問題意識の対象になって来たようだ。
 遅きに失したのかもしれないが、やっと世間の感覚がやや正常に戻って来たと言うべきか。
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 所得税の確定申告書を作成していたら、去年に比べて課税額が大幅に上昇していることに気付いた。もっとも、ささやかな年金生活者だから、税額自体はたいしたことはないが、それにしても相当なアップである。公的年金の所得算出方式が「修正」されたのに加え、老年者控除がなくなったのがその理由のようだ。たとえば、年金額が年間300万円で社会保険料支出が50万円の場合、去年なら税額ゼロだったものが、今年は6万円弱の税が掛かることになる。国会等で大議論がされた印象もないままに、いつの間にか年金生活者に厳しい税制になっているのには、腑に落ちない面もある。
 もっとも、同じ所得の給与所得者の場合、7万円弱の税額になるようだし、それ以外の年収のレベルでも、給与所得者の税金の方が年金生活者よりやや高いようだから、これまで高齢者や年金受給者が優遇され過ぎていたということなのかも知れない。考えようによっては、多少なりとも税を払うということは、「人並みの稼ぎがあり、弱者ではない」ということでもあり、年金生活者も一人前の社会人として認知されたという意味で、慶賀すべきことなのかも知れない。
 そういった意味では、この程度の税金は高齢者も払うのが社会的公正に叶うと考えるべきなのだろうが、問題は、年金課税の問題というより、「この程度の所得にも税が掛かるのか」という課税最低限の問題であり、他方、高額所得者の税が軽過ぎるという問題だと思う。言い換えれば、税による所得再配分という機能が十分果たされているかどうかということだと思う。
 同じようなことを12月23日のブログにも書いたので、これ以上触れることは避けたいと思うが、私の結論は、現在の高額所得者に対する税率は余りにも低過ぎるということである。たしか最高税率でも37%だったと思うが、各種控除後の所得が2,000万円を超えるような所得に対してはより高率の税を課し、1億円を超えるような所得に対しては、所得の再配分の見地から、懲罰的な課税をしても良いとすら思う。また、そのためには、すべての所得を総合的に把握して総合課税をする必要があり、納税者背番号制は必要不可欠なものだと思う。もっとも、私にも相当程度の所得を得ていた時期はあり、その頃には「税が高過ぎる」とぶつぶつ言っていたので、年金生活者になった現在このような主張をすることは、いささか後ろめたい気もしないではないが、社会的公正の見地からは当然のことだと思うし、ましてや今後消費税の増税が不可避だとすれば、それとのバランス上からも直接税の税率大幅アップは当然の前提だと思う。また、相続税課税最低限は大幅に引き下げ、かなり低い相続財産に対しても、それに見合った課税をすべきものだと思う。
 税の目的は、税収確保のみではなく、所得や資産の再配分を通しての社会的公正の確保にもあることは当然であり、市場経済を重視するならなおのこと、税による再配分の機能をより重視すべきものだと思う。なお、現在の超低金利政策は、企業や国家が個人の財産を収奪していることにほかならず、金利の適正化は、社会正義の見地からも、すべての施策に優先して真剣に考えるべき課題だと思う。