題詠100首選歌集・その3&選歌手順

選歌集その3をお届けします。なお、末尾に説明めいたものを少々書いています。


002:指(85〜129)
 (紫峯)花挿せば ひひなの白き指先にほんのり淡く春の漂う
 (みあ)見あげてる星はそれぞれちがうけどまだはずせないビーズの指輪
 (萱野芙蓉) 手袋をはづせば春へ透過する指あやふげに浮力をもちて
 (新明さだみ)指でしかできない会話 終わりからはじまりまでを繰り返し書く
 (ぱぴこ)引き出しに眠る指輪がいつまでも君の変化を否定している
 (あおゆき)美しい外科医の指とその妻の指の時間を淡く妬めり
009.椅子(27〜48)
 (文月万里)公園の捨てられた椅子に陽はこぼれひかりの子どもの遊び場となる
011:からっぽ(1〜32)
 (髭彦)ぽっぽっぽはとぽっぽの<ぽ>しっぽの<ぽ><ぽ>ってなんだろからっぽの<ぽ>も
 (みずき)頬あをきピカソの女からつぽの花瓶の夜を灯しつづけぬ
 (富田林薫) 新しいからっぽの箱手にもって春の空気を詰めてまわろう
 (丹羽まゆみ)浅春に風を生みつつからつぽの終バスが夜のぬばたま運ぶ
 (畠山拓郎)からっぽと表現される我なれば埋めるすべない空洞を持つ
012:噛(1〜35)
 (ねこまた@葛城) 草の葉を噛みて流るる碧となる薫風翩翻そに溶け往かん
 (春畑 茜)こんにやくはここに淋しき香りして噛みゐる雨夜を沁むるさびしさ
 (丹羽まゆみ)牡馬たちの群れを離れて穏やかにせん馬は朝の陽射しにれ噛む
 (ドール)完全に壊れ噛みあわなくなったファスナーみたいな二人の会話
013:クリーム(1〜34)
 (aruka)夕暮れの街で五人の助教授がアイスクリームを必死に食べてる
 (ほにゃらか)はじめてのリップクリーム選びつつはしやぐ娘に春は桃色
014:刻(1〜30)
 (髭彦)刻々と現在(いま)から過去となり行ける未来も尽きて土に帰る日
 (丹羽まゆみ)ぜんまいの灰汁抜きながら厨辺に春夜をあはく刻むみづおと
 (春畑 茜)夕刻のねぎの白さをきざみゆくジョビンのこゑに影ゆれながら
 (ほにゃらか)どこまでも不可思議なるを侵しゆき人は幾多の轍(わだち)を刻む
 (天野 寧)君が乗る時間帯にもマーカーで印を入れたバス時刻表
015:秘密(1〜27)
 (行方祐美)秘密とは濡れいる言葉ゆらゆらと白蓮のはな目覚める頃の
 (丹羽まゆみ) ここだけの話ねといふ注釈をつけ耳朶に秘密が育つ
 (小軌みつき)柔軟な秘密はずっとあとをひくとぼけた金魚にうちあけようか
016:せせらぎ(1〜30)
 (髭彦)せせらぎの日々に流れよわが裡に川面の見えぬ都に在れど
 (みずき)情熱をひたひた溜めし手のひらが触るる刹那の雪のせせらぎ
 (春畑 茜)逆光に釣り上げられて束の間をせせらぎの上(へ)に魚が歪めり
 (丹羽まゆみ)ゆつたりと冬の記憶に満たされてせせらぎけふを量増やしゆく
 (謎彦) 硬水のせせらぎなればチェコびとはホ短調もて描きおこせり
017:医(1〜29)
 (髭彦)こころ病む患者(ひと)看る医師の時として自ら病むごと見ゆることあり
019:雨 (1〜26)
 (風流三昧) 小雨降る ビニール傘に 透かされて 薄紫の 紫陽花霞む
 (船坂圭之介)春を待つこころに成れず夕やみのなか静もれる雨の素気無さ
020:信号(1〜24)
 (みずき)信号の十字をわたる真ん中は疎外感とふ青の哀しみ
 (丹羽まゆみ) 信号の青に許されつかの間をゼブラゾーンの春風となる
 (春畑 茜) なにがなしこころ疲れて昼すぎの路上ときのま信号を待つ

 
 しつこく申し上げているように、全く勝手気ままな選歌です。神様の目から見てアンバランスであるだけでなく、選者たる私自身も、時々の気まぐれもあり、日によって物差しの違いもあると思います。その程度のものだということをどうかお許し下さい。なお、去年からご参加の方はお読みになったかもしれませんが、去年のブログに、選歌や最後の百人一首のことなどいろいろ書いていますので、念のためにいくつかつまみ食いで列挙しておきます。
 5月7日:選歌スタートに当ってのコメントと釈明
 8月22日:私の選歌の傾向など
 11月1日:百人一首の選定方針
 11月3日:百人一首本体
 11月4日:百人一首を終えた後の感想など
 なお、この選歌は以下のような手順で行っています。
①私の投稿済みの題のうち、作品が30首くらい溜まった題の作品を私のドキュメントにコピーする。
②その中から、私の比較的好きな作品を残して「予選通過作」とし、それ以外を私のドキュメントから削除する。
 ・何首という方針があるわけではなく、いわば気まぐれによる刹那的な絶対評価である。
 ・したがって、短歌の神様の目から見て漏れがあることは当然として、私自身の目から見ても、漏れがある可能性もある。また技術的にも、コピーした作品はそれぞれセル(?)の中に入っているので削除が結構むずかしく、ある作品を消そうとしたときにその次の作品まで消してしまうような可能性が皆無とは言えない。もちろんそうならないように十分注意はしている積りだが、削除や移動の途中で、セルが突然ピョコピョコと動き出したりして、面食らうこともある。
 ・作者のことは全く考慮していないが、作者によっては、この段階ではほとんど全作品に近いものが残る方もおられる。
③その「予選通過作」から、更に選歌して、このブログに掲載している。大雑把に言えば、予選通過作の三分の一くらいだろうか。去年より少し甘くなっているかなという気がしないでもない。なお、最後に百人一首を作るときは、去年同様、「選歌集」からではなく、「予選通過作」全体から再度選歌したいと思っている。

 以上、長々とお喋りをしてしまいました。お許し下さい。