題詠100首選歌集・その4

 選歌集をお届けします。毎回そうなのですが、今回は特に、入れようか外そうかと迷ったものが多く、最後はエイヤッと独断と偏見で「決断」しました。もし明日やれば、違う選歌になるのかもしれません。お許し下さい。


001:風(109〜147)
 (おとくにすぎな) てのひらは風にとびこみポケットで育てた蝶をしずかに放す
 (紫女)椿咲く斑の枕死期近き少女が母を呼ぶ風が吹く
  (ケビン・スタイン)空き家では飾りっぱなしの風鈴が鳴ってる2月 長い真夜中
 (斉藤そよ)風が来てひめくりめくる くうさうの居間にも春がめぐりくるらし
 (酒童子)ひかる風眩しき季節くるごとに吾子亡き空の青なお哀し
 (素人屋)午後2時の日差しは熱し 脱ぎ捨てた黒ストッキング春風に干す
003:手紙(73〜110)
 (末松さくや)やぶられた手紙の海で泳いでる無駄で馬鹿げてやさしいことば
 (田丸まひる)あたたかい言葉まみれの決別の手紙ちいさくちいさくたたむ
 (紫峯)なにがしの手紙も持たず訪ね行く濃霧の朝の舗道は黒く
005:並(69〜105)
 (栗凛)肩並べ歩く二人の行く先は不幸せでもいいと強がる
 (田丸まひる)ふつつかな殺し文句をさしあげるコンビニ並ぶまぶしい夜道
006 自転車(59〜107)
 (舞姫)自転車で迷いこみゆくきまぐれにわたしを生んだ春のはらっぱ
 (きじとら猫)自転車の後輪脇のフレームにあの日の嘘が隠されている
 (翔子)焼きたてのフランスパンを縦に積む草萌えの道自転車の坂
 (紫峯) 君のこえ胸に溢れて坂くだる自転車はもう桟橋の前.
 (田丸まひる)自転車の後ろに乗せるひとがもうわたしではなくなって花冷え
 (ぱぴこ)「おはよう」を自転車小屋で交わすため少し早めた登校時間
 (月影隼人)自転車を降りて歩こうゆっくりと 君の家までもうすぐだから
 (花夢)あいされていないと気づく出来事は自転車置き場に捨てて来ている
 (Ja)もう君が乗ることのない自転車に如月の雪静かに積もる
007:揺(51〜100)
  (佐原みつる) 灰皿に丸め置かれる便箋のひかりの中に揺れるさよなら
(田崎うに)揺りかごが記憶の底で漕ぎだして幼き我を抱く若き父
(遠山那由)三月の黄色い風にまだ咲かぬ桜の枝が揺れている窓
(田丸まひる) 疑いを知らないひとが注ぎこむ熱に揺られているふりをする
021:美(1〜24)
 (船坂圭之介) 美はしき面影を幻(み)ぬ眉月の山の端(は)に寄るまでの宵ぞら
 (みずき)美しき日日も翳みて八十路なる母は狂女のうすき眉ひく
 (丹羽まゆみ) 加点なきイナバウアーにこだはりしその頤の美(すず)しき矜持
 (春畑 茜)しば漬は茄子のむらさきしんなりと今宵美し伊万里のうへに
022:レントゲン(1〜26)
 (春畑 茜)白波の浜島病院ゆらゆらとレントゲン室までをゆく午後