題詠100首・その9

 独断と偏見に基づく勝手な選歌です。なお、概ね以下の目安で掲載しています。
① 30首くらい貯まった題を目安に選歌する。書いてあるナンバーは、主宰者サイトの「お題」の欄に書いてあるナンバー。再投稿や誤投稿もあるので、正確な作品数ではない。
② 全体で300首、10題程度貯まったら、整理して掲載する。


015:秘密(72〜99) 
  (佐藤紀子)母われに秘密いくつか持ち始め娘が少し美しくなる
  (佐原みつる) 縁側に丸くひかりの注がれて誰の秘密も暴かれる春
018:スカート(54〜82)
 (五十嵐きよみ)スカートをつまんでお辞儀しましょうか淑女のように扱われれば
 (野良ゆうき)スカートが似合ってしまう男の子みたいな女子が駆ける校庭
  (松本響)スカートの最先端とくるぶしのせつない距離を恋と呼ばせて
024:牛乳(28〜57)
 (愛観) 戻せない言葉こぼした牛乳の白い輪染みをじっと見ている
 (佐田やよい)牛乳の白をすいこむ角砂糖ホロリとくずれ時を動かす
025:とんぼ(29〜53)
 (ハナ)飛びたくて飛んでるわけじゃないとんぼ わたしのおうちいつも夕焼け
 (水須ゆき子)群れて飛ぶとんぼの翅は今生の宿であるらし日暮れの虹の
038:灯(1〜30)
 (ねこまた@葛城) 胸内にほのかに揺れる青白き灯火ひとつ木花闇ゆく
 (はこべ) 柚子灯かり 炉開きの膳ととのえて 閑座して待つ松風の音
 (船坂圭之介)一途なるひとの想ひにたじろぎてただ置きて去る街の灯の下
 (みずき)みちのくの春を灯して花花の競ふあはひを声なく過ごす
 (丹羽まゆみ)点灯夫ゐるがに灯る街明かりひとの数だけやさしさがある
039:乙女(1〜35)
 (ねこまた@葛城) 早苗植ゆ乙女の歌に招かれて棚田の春はゆるりおとなう
 (丹羽まゆみ)喪服などまだ似合はない乙女子の茶髪にあはくなごり雪沁む
 (ほにゃらか)「母さんはときをり魔女の占ひ師」さてもをかしく乙女は喩ふ
 (中村成志)蝋燭を持ち来る乙女ほほえみし停電長きネパールの宿
 (ふしょー)神事ゆえ化けも化けたり若衆が豊作祈る早乙女踊り
040:道(1〜32)
 (船坂圭之介) 陽だまりをその肩に受け犬ひとつ屑のごとくに眠る道端
  (行方祐美)チェルシーの抹茶ミルクを溶かしつつ姫街道に春を語れり
 (暮夜 宴)とけそうな虹を見ていた歩道橋ひかりの帯を一本ほどく
 (ふしょー)来し方は行きつ戻りつジグザグで未来はいつも真っ直ぐな道
041:こだま(1〜25)
 (みずき)かへりこぬ昨夜(きそ)のこだまは山峡の宿に掠れし時計を鳴らす
 (aruka)きみはまだ夢のこだまのなかにいる 手に一本のマッチをもって
 (かっぱ) こだまするはずじゃなかった「さよなら」が記憶のきみをピカピカにする
 (飯田篤史) いつの日もみどりの森にぼくたちのやさしさはただこだまするだけ
042:豆(1〜28)
 (船坂圭之介) 節分の夜を忘れたる独り居の窓に響かふ豆を投ぐ音
 (みずき) ひやひやと豆まく春の加速度へこころの小鬼映す玻璃窓
 (中村成志)鉄釘を入れて煮た豆くろぐろと正目(まさめ)の箸につままれており
043:曲線(1〜31)
 (みずき)曲線はスカートの丈織りなして街ゆくひとの春を揺らせり
 (髭彦)やはらかな曲線ゑがき横たはるムーアの像に雪の降りつむ
 (丹羽まゆみ) 曲線になれぬ光が分かつ地の日向の側を咲くいぬふぐり
 (中村成志)曲線の集合体に向けられて白羽(しらう)のごとく指揮棒は舞う
 (飯田篤史)てのひらをそっとつないではるの日のみずはやさしい曲線のなか
 (ふしょー)身の程も弁えないでギザギザの恋の忘却曲線を描く
044:飛(1〜27)
 (ねこまた@葛城) 誘い来る風のまにまに漂いし飛鳥路もはや残照に染む
 (遠山那由)飛ぶ夢は見なくてもいい現実の岸から少し離陸できれば
045:コピー(1〜29)
 (髭彦)鉄筆でガリ切る音の放課後に絶えて久しきコピーの生(あ)れて
 (みずき)コピーしたユトリロの街ひんやりと抱へ小雨を灯す駅舎に
 (aruka)レオナルド・ダ・ビンチに似たコピー機があらゆるものをコピーしている
 (丹羽まゆみ) コピーせし図面抱ふる作業着の父に沁み込む青刷りの匂ひ
 (春畑 茜) コピー機はコピーを続けわれはわが影重く垂れ夕窓に立つ
 (新井蜜) 海亀を仰向けにしてコピー機のガラスに乗せて撮った曼荼羅
 (遠山那由) 水面の波紋見つめる簡単にコピーされない幸せもある
046:凍(1〜25)
 (丹羽まゆみ) しづかなる水に浸されふたたびを凍り豆腐に満つるやさしさ
 (飯田篤史) ほんとうのこころはひとつ花びらは凍えるように花びらのなか
 (遠山那由)トラウマを漁船の中に凍らすも変わらぬ僕が医務室にいる