題詠百首選歌集・その12

  昨日、ふと思い立って、我が家の近くから石神井川沿いに、飛鳥山公園まで8キロほど散策した。川沿いに桜が植えてあるところが多く、遊歩道もほぼ完備しており、花の盛りを満喫することができた。途中途切れている箇所もあるが、桜並木の延べの長さは我が国有数かも知れない。長年住んでいるのに、手近に桜の名所があることにはじめて気付いたわけだ。
それはさておき、引き続き選歌集。ところで、ちゃんと打った積りでも、「登録」してみると頭の文字の高さが揃わず、「編集」に戻して修正してみても思い通りに行かない。見苦しいのだが、ギブアップするしかなさそうである。


006:自転車(135〜164)
 (黒田康之)自転車はキコキコと行く春の街ブリキ細工の吾の速度で
 (和良珠子)口重い父について行く自転車の轍重なる道のたんぽぽ
012:噛(97〜126)
 (斉藤そよ) 霧雨に流されさうな木曜日 爪を噛む子をたしなめている
 (凛) あと五分経ったら帰ろう 味のないガムを噛みつつ携帯にぎる
 (Ja) 噛み合わぬハナシが面倒くさくなり四捨五入してOKとする
019:雨(62〜92)
  (素人屋) (どれくらい ねえ、黙ってる) 少しだけずれた雨音聴いている夜
(みにごん)レコードが記憶している雨音の匂いのジャズを混ぜたビスキュイ
020:信号(61〜93)
(はるな 東) 行く先を迷うあなたの左手の赤信号に染まる真夜中
 (みあ)息さえも出来ないほどに抱かれて青信号をわたれずにいる
 (方舟) モールスの信号打てる過去ありし手に携帯のメール馴染まず
021:美(58〜87)
(夜さり)乱調にあらばことさら美しく夏の衣は崩しても着る
(末松さくや)コーヒーを美味しくいれて一度ではすまない話をしにきてもらう
 (みあ)雨降りの夜の都会はてらてらと美しすぎるとかげのしっぽ
 (紫峯)遠ざかる想い出なれば美しく心のすみを燃やす夕焼け
 (斉藤そよ)冬の灯を消さうとするととめどなく美しく降るあのころの雪
030:政治(3月23日付けの選歌集その7で、作者名を誤載していたので再掲)
 (aruka)舞台ではマリオネットの政治家が操る人を支配している
054:虫(1〜30)
 (ねこまた@葛城) 雪虫の飛び交う町より友の来て蒼天眩しと冬空仰ぐ
 (丹羽まゆみ)大らかな弧を描きつつ鍬形虫(くはがた)は午後の図鑑に鋏をひらく
 (かっぱ)すぐそばに帰れる場所がある自由 でんでん虫はゆっくり歩く
056:とおせんぼ(1〜29)
 (行方祐美)日曜の朝の踏切とおせんぼ約束はもう始まっている
 (丹羽まゆみ)人間ぢやない子はみんなとほせんぼ鬼の子雪ん子口減らしの子
 (飯田篤史)かなしさをかなしさがとおせんぼしてきみはしずかにたちつくすだけ
057:鏡(1〜29)
 (飯田篤史)ぼくたちの鏡のなかのやさしくてやさしいだけの街にふる花
 (暮夜 宴)夏草の匂いにふっとまどろめば鏡の国のアリスが笑う
058:抵抗(1〜29)
 (みずき)抵抗もせず流れきし我が海の怒涛知らじな 髪がたを変ふ
 (aruka)楽園に抵抗してるぼくたちは小雨みたいなシャツを着ている
059:くちびる(1〜30)
 (行方祐美)くちびるは丸まる言葉わがなぞるすべてのかな文字カーブを描き
 (みずき)ペルシャ猫こよひ琥珀の目を吊りてくちびる欲りぬ生臭き春
 (春畑 茜) くちびるを固く閉ざして朝をゆく風にことばがこぼれぬやうに
 (遠山那由)どうでもよい言葉で空気震わせて言いたいことは言えぬくちびる
 (暮夜 宴)肩すくめ「なんでもないよ」と言う君の嘘が気化して乾くくちびる
060:韓(1〜30)
  (ねこまた@葛城) 韓国(からくに)の浜よりひたに妻恋て天日矛は隠岐へと到る
 (はこべ)韓藍のやしろの衣深くそめ 舞ってみたきや能の『羽衣』
 (行方祐美 )おおそぼの韓櫃(からびつ)は春の寡黙なりたれか桜を舞わせはじめよ
 (みずき)韓(から)といふ文字(もんじ)へまはす地球儀の見知らぬ海を春が揺らせり
 (髭彦)韓人(からびと)は散れど次々咲くを愛でその花呼びて無窮花(ムグンファ)と云ふ
 (暮夜 宴) 韓流の風にジャラジャラ便乗しパチンコ冬のソナタよ廻れ
 (謎彦)ぶりぶりと切りぬいたるを「韓非子」と名づけ餐後の紙相撲(ずまひ)せむ