題詠百首選歌集・その13

 題詠百首選歌集。投稿のペースも大分落ちて来たようだ。まあ、ボチボチ行きましょう。


022レントゲン(58〜87)
(animoy2) レントゲン写っています かの昔アダムがくれた私の一部
(末松さくや)祈るほど漂白されるブラウスを羽織ってレントゲンとりにゆく
(みあ)恋ひとつ秘めておりますレントゲンさえも写せぬ鎖骨の隅に
023:結(54〜82)
(みゆ)「また明日」結び言葉に安堵する 吾の居場所を其処に見つけて
(野良ゆうき)あいまいな結語を置いて一日の扉をしめる 明日は明日
(はるな 東)愛しいと書きはじめたる恋文も他人行儀の結びでしめる
(斉藤そよ)そこここに晴れてふたりは結ばれてお伽噺のつづく四月夜
030:政治(36〜65)
(ハナ)あんなことしたあと政治の話とかしてる男の愛人2号
(水須ゆき子) 合併の町に小さな政治あり曇硝子を塞ぐポスター
031:寂(30〜58) 
(翔子)川べりをゆるゆる歩きし切なさに寂光院は静かに昏れる
(五十嵐きよみ)対になるワイングラスの一方をわざと割ってはよけい寂しい
(ドール)間違いはすべて消されて正解が寂しくひとつ残る黒板
(水須ゆき子)浄土とは寂しき光つどう場所とかげの墓に貝を添えたり
032:上海(29〜56)
(上田のカリメロ) 異国とは我が身近くにあるのかも 上海という響きに思う
(原田 町)上海の租界で羽振り良かったとひとつ話の伯父の晩年
033:鍵(29〜55)
(鈴雨) ドアを閉め鍵を返すということのせつなさを越え春を踏み出す
(五十嵐きよみ)ひとつずつ女性の名前を鍵盤に与えてあなたが弾くセレナーデ
(ドール) 開けるべきたくさんのドア 楽園を出てゆくための鍵をください
(愛観) 黒鍵のように寄り添う君の影 半音分しか動かない恋
(小軌みつき) まよいこむとかげのかげの鍵穴にあわない鍵を持ったまま、春
061:注射(1〜27)
(はこべ)注射終え緊張顔の幼子が はにかみながら手を振る医院
(丹羽まゆみ)わが腕を狙ひ小さな注射器が銀のひかりを蓄へてゐる
(animoy2) 注射器の針先見つめその先の記憶はなくて喪失の朝
062:竹(1〜27)
(みずき)笹竹の茂り踏みわけ庵奥へすずしき嵯峨野歩ごと纏ひぬ
(丹羽まゆみ)匹如身になれぬ体を地に立てる竹いつぽんのいだく緑闇(あをやみ)
(髭彦)原爆に耐へ咲く花と知りて見む夾竹桃の色の深さを
063:オペラ(1〜27)
  (行方祐美)オペラならわが耳溶かせてみせ給え四月がもうすぐ始まる今宵
(まつしま)オペラへは行かずとも気になっている顔半分の仮面の孤独
(紫女) 純白の涙を覆う厚化粧三文オペラの恋が始まる
(animoy2)オペラへの誘い断り居酒屋でハイヒール脱ぐ見合いはやめた
064:百合(1〜28)
(しゃっくり)故郷の墓に群咲く白百合や女系で滅ぶ一族となり
(みずき)雪原に凝る百合の木いくさからいくさの日日を立ち尽くすまま
(丹羽まゆみ)百合の香に啓かれてゆく六月のおもてにうらに水あふれをり
(飯田篤史)さみしさのひかりのなかの百合のいろあめがあなたをつつみこむとき
(髭彦)食ふための根をぞ掘らむと白百合を竹薮深く求めし日々よ
065:鳴(1〜26)
  (ほにゃらか) 目覚ましが「朝ぞ、起きよ」と鳴るからに「春ぞ、しばし」と頼みてゐたり