題詠百首選歌集・その15

このところ、新しい文章を書き下しで載せる意欲がなかなか湧かない。別に体調が悪いわけでもないし、書きたいテーマがないわけでもないのだが、何となく億劫になってしまう。その結果、出来合いのものを転載するか、題詠百首の選歌をするかどちらかになってしまうのだが、まあそのときどきの気の向きようでしようのないことかとも思う。
 今回の選歌、かなり判断に迷った作品が多い。時により、迷った作は落とすことも多いのだが、今回はどちらかと言えば、迷った作は載せるという方に動いてしまったような気もする。そういった意味では、物差しが甚だはっきりしない選歌ではある。私の気まぐれをどうかお許し頂きたい。



    選歌集・その15

010:桜(123〜149)
  (ゆあるひ)明日には持って行きたくない想い埋め尽くすまでに散れ桜花
 (瑞紀)散りいそぐ桜をのせて大川のみづは海へとやさしく流る
 (つきしろ)もう二度とあなたと会えることもない。たとえば昨日は咲いてた桜。
015:秘密(100〜125)
 (小原英滋)ぷっつりと切れてしまったぼくたちの秘密の糸が首に巻きつく
 (ワンコ山田)魔法瓶のぞけば光るいびつな目秘密を知った僕を見上げる
 (田丸まひる) ひだまりのにおいの秘密聞かされるときゆるやかに上がる体温
 (みあ)悪いけど秘密くらいはもってるののどチんこまで見せちゃってもね
 (睡蓮。) 月甘くほたる舞う夜はほろ酔いで君と秘密の声聞かせ合う
019:雨 (93〜117)
 (みあ)花びらを空へ空へと開きゆく白蓮すこしうつむけば 雨
 (方舟)天守より眺むる雨の大阪城傘の彩り花に埋もれて
 (くろ)雨戸から鳥の巣藁をとりだせばハモニカのごと風の音とほる
 (山本雅代)雨傘をあなたの部屋に置き忘れpenisみたいなバスに乗ってる
 (ひぐらしひなつ)アーモンドグリコadidas、雨粒に五月を宿し舗道をはしる 
 (睡蓮。) 花散らす雨に打たれて頬濡らし始まりもせぬ恋が終わった
 (里坂季夜)まだどこにもたどりついてはいないのに立ち止まるたびいつも雨降り
 (佐原みつる) クレンジングミルクを頬になじませて明るいだけの雨音を聞く
024:牛乳(58〜95)
 (川内青泉) 今は亡き祖父が開いた牧場の牛乳風呂で疲れを癒す
 (みずすまし) 谷あいの小さき村に靄靄(あいあい)と牛乳色した海がただよう
 (紫峯)牛乳を温める間の甘やかさ地にしっとりと蒼い夕闇
 (方舟)捨てるべく牛乳搾る器具あてて牝牛は知らず列なしてゐる
 (佐藤紀子)牛乳を温める間の20秒 をさなと数を唱へつつ待つ
025:とんぼ(54〜89)
 (野良ゆうき) 虹色のとんぼのことを話すとき君の瞳は複眼になる
 (animoy2) とんぼ追い走った野原はもうなくていったい何を捕るのか三十路(みそじ)
 (ワンコ山田)地の果ての何も無い空つながったとんぼになって終わるのもいい
 (小原英滋) 時過ぎてつつましさをも脱ぎ捨てり赤きとんぼのおどる夕暮れ
026:垂(60〜92)
 (animoy2)垂れ下がる小枝の揺れで風をよむ きみの思いは見えないけれど
 (おとくにすぎな) あのひとのいない深みで想ってる海には海の垂直分布
 (みずすまし) 墨彩の白き小道にふみいれば また垂じり雪 落つ音聞こゆ
 (ワンコ山田)うな垂れてパンク自転車押す夜は一人暮らしの鎧が重い
 (紫峯) 無限なる時間の中にジェット機垂直尾翼キラリと光る
 (田崎うに)「欠席」を垂直線で消しながら新郎の名を確かめておく
 (みあ)お日さまの色になりたいひまわりは空へむかって垂直に立つ
027:嘘(55〜88)
 (野良ゆうき)三つ目の嘘が隠した二つ目の嘘をいまさらばらす気もない
 (みずすまし) 嘘という仮面をつけて今日もいく病の部屋にやさしさ満ちて
 (みなとけいじ)じぶんでは気づかない嘘 放課後に開いたままの国語教科書
 (斉藤そよ) 跡消しのゆき降りつもり使い途なくした嘘がただよえる夜
 (紫峯) 唐突に立ち上がる影カフェテラス嘘をつきしは貴方か吾か...
 (秋野道子)シーソーを漕ぎつつ多分わたしたち嘘はつけない春の公園
 (振戸りく)指先がドライアイスの冷たさであなたの嘘を教えてくれる
 (佐藤紀子) もう誰も覚えていない 初めての嘘を言ひたる日の哀しみは
035:株(31〜57)
 (水都 歩) 切り株の横にひこばえ真っ直ぐに天めざし伸ぶ花冷えの杜
 (原田 町) 株市況つねに聴きいし舅なれど儲けたことはついに言わざる
 (愛観) 希望とは微かな隙間 株分けたばかりの疎らな葉と葉の間
036:組(30〜62)
 (animoy2) ティーセット五客一組購入し輪郭描くまだ見ぬ家族
 (水須ゆき子) できるだけいじめられない分け方にされて寿(ことほ)ぐ春の組替え
 (花夢)B組の窓際からは見えていた世界の色が褪せてゆく夏
 (ワンコ山田)ベッドにも組み立てキットぶちまけて想う人から離れた暮らし
037:花びら(30〜60)
 (ハナ)花びらとわたしを呼んだその声に毟られたくてわざと震える
 (天野 寧)淡い想い行き場なくした春の日にひらり私は花びらになる
 (夜さり)埋木舎のあるじの上にふりつもる花びら雪の三月三日
 (秋野道子)ちぎっては黄や橙の花びらをグリーンサラダに散らす食卓
 (野良ゆうき)やはらかき花びらにふれ指先は指先であることに気がつく
038:灯(31〜60)
 (川内青泉)仏壇の灯ともし拝む家族あり春の葉月は父母の命日
 (なかた有希)てのひらやえくぼよりただ君がいる街灯の光よけながらゆく
 (野良ゆうき) 街の灯がともりはじめる頃すこし寂しくなってふくハーモニカ