平成17年国勢調査の概要

 このブログにも何度か書いたように、市町村の合併経過や人口推移等を調べるのが私の最大の道楽で、これまでに本を2度出版したこともある。また、5年に1度の国勢調査のたびに、「通産ジャーナル」とその後身の「経済産業ジャーナル」(私の古巣である通産省(現在の経済産業省)の広報誌)に、「市町村盛衰記」なるレポートを、半ば押し売りで書かせて頂いており、昨年10月に行われた国勢調査の結果も、同誌の4月号に掲載された。以下は、そのレポートの転載である。
  転載に当たっては、もちろん同誌編集部にお話しし、「4月20日以降なら差し支えない」とのの御了解を頂いている。本日でやっと解禁になったわけだ。なお、同誌は縦書きなので、ブログ転載に際し、横書きにするために数字等の表記は多少直したが、基本的には同誌掲載のものと同様である。

   
<特別寄稿>  続々々々 市町村盛衰記 ―――――平成17年国勢調査あれこれ
                     西中 眞二郎(元・工業技術院総務部長)

  
  まだ通産省に勤務していた昭和60年以来、5年毎の国勢調査のたびにその結果をまとめて、本誌に「市町村盛衰記」なるものを寄稿させて頂いて来た。この間、大正9年の第1回国勢調査から平成12年の前回調査までのデータを私なりに分析し、このシリーズのタイトルを流用して、「市町村盛衰記――データが語る日本の姿」(平成16年・出版文化社刊)なる著書を上梓したりもした。長年にわたり私の道楽にお付合い下さっている編集部の皆様や読者諸賢には御迷惑かも知れないが、今回も5年ぶりに筆を執らせて頂きたい。20年にわたって皆様にお目に掛かるわけだが、かくなる上は「老いの一徹」ということで、お許し願うほかはない。

 
 限りなきゼロへの接近―――成長期の終り

  昨年10月1日現在の我が国の総人口は、1億2775万6815人、前回調査に比して、0.65%の微増である。前回の伸びが1.08%、その前が1.58%、更にその前が2.12%だったわけだから、今回の伸びがいかに低いかがお判りだろう。この数字は5年前との比較だが、もっと近い時点との比較をすれば、我が国人口は昨年半ばには既に減少に転じていると推定されており、今回調査が人口増加の最後のものだということになるはずである。
  なお、この数字は速報値なので、確定値になれば多少の変動はあるだろうが、前回の例によれば、確定値で6,555人増加したに過ぎず、まず有意な差はないと思って良いだろう。
  
  これを47都道府県単位で見ると、前回の国勢調査からの5年間に、秋田、和歌山両県の3%を超える減少を底として、合わせて32県の人口が減少している。昭和50年調査以来、5年毎の人口減少県の数を見ると、1→1→18→13を経て、前回調査の23県に及んでいたのだが、今回はこれを更に大きく上回る数字である。人口全体がゼロ成長に近づいているのだから、当然と言えば当然の話だが、後で見る市町村単位の数字のみならず、県単位でも人口減少県が3分の2以上を占めるに至ったということは、既に多くの地域で人口減少社会が現実のものとなっているということを如実に示している。
  個別の県について見ると、増加第1位が東京都の4.2%増、続いて神奈川県3.5%、沖縄県3.2%、愛知県3.0%、以下滋賀県、千葉県、埼玉県、兵庫県、福岡県、静岡県、栃木県、三重県岡山県大阪府京都府の人口が増加している。これらの県はいずれも前回に続いてのプラスである。こうして見ると、沖縄県、福岡県を除き、概して本州中央部の県によって占められている。特に、東京都の伸びが第1位というのは昭和30年以来のことであり、神奈川県の第2位も含め、東京一極集中の傾向を見せている。
  前回がプラスで今回マイナスに転じた県を見ると、岐阜県群馬県宮城県茨城県山梨県、石川県、長野県、福井県奈良県の9県であり、残りの23県は前回に引き続いての人口減少である。このうち、宮城県茨城県山梨県奈良県あたりは、これまでは人口の伸びが比較的高かった県なのだが、これらが減少に転じたということと、東京都、神奈川県等の首都圏の中核県の人口増が大きいこととを併せて考えれば、首都圏や近畿圏の拡大に歯止めが掛かる一方、その中での拠点への集中が進んだと見ることができそうである。

 
 市町村数の変化――市の大幅増と町村の激減

  ここで国勢調査自体からはちょっと話が離れる。というのは、今回の調査と前回調査との間に、いわゆる平成の大合併が進行し、市町村の数が大きく変わったので、その話をしておかないと、これから先に話の進めようがないからだ。

 昭和29年前後のいわゆる昭和の大合併の結果、全国市町村の数は、いずれも10月1日現在で、昭和25年の10,500から、30年の4,877、平成12年の3,230へと大幅に減少したが(いずれも東京23区は1市として算定。以下も同じ。)、現在進行中の平成の大合併の結果、昨年10月1日現在の市町村数は、平成12年から1,013減少して2,217市町村となっている。このこと自体は、国勢調査の結果と直接関連するものではないが、5年前には3,230あったデータが、今回は2,217に減少して来たことにほかならず、データの分析などは、かなりラフなものにならざるを得ないという一面を持つ。
  これを市町村別に見ると、前回国勢調査の時点に対し、市が79増の751、町が813減の1,178、村が279減の288となっている。このうち、市の増加の内訳を見ると、新しく誕生した市が96、さいたま市のように市同士の合併により減少した市が17、差引き79の増加である。
  更にこの3月末には、議決済みのものまで拾うと、平成12年に比して約44%減の1,822市町村(778市、846町、198村)となる見込みである。

  これらの数字からお判りのように、町村数の半減の中で、市の増加が目立っている。これは、合併促進のための合併特例により、市制施行の要件を、本来なら人口5万人のところを3万人にまで下げ、しかもその他の都市的要件も排除した結果の産物であり、市が全国に占めるシェアを平成12年のデータに固定した数字で見ると、平成12年には人口で78.7%、面積で28.5%だったのに対し、17年度末には、人口で89.0%、面積で56.0%と、極めて大きなものとなって来る。
  なお、市制施行の合併特例等は、16年度末までに合併が決定された上で17年度末までに合併するものが適用対象となっており、特例による市の誕生はこれで一応一段落ということになりそうである。

 
 都市の動向――地方中核都市にも減少傾向

  今回の調査の結果、我が国の10大都市は、東京23区、横浜、大阪、名古屋、札幌、神戸、京都、福岡、川崎、さいたまの各市となり、さいたま市の登場により、広島市が11位にランクを下げた。これに続く20大都市は、広島、仙台、北九州、千葉、堺、浜松、新潟、静岡、岡山、熊本の順であり、新潟、静岡の両市が新たに登場し、前回の相模原、鹿児島、船橋の各市がベスト20から姿を消した。また、18位だった浜松市が順位を上げた。
  さいたま市は、御承知の通り浦和、大宮、与野、少し遅れて岩槻の各市の大型合併によって誕生した市であり、新潟市は新潟、新津、豊栄、白根の各市等の合併、浜松市は浜松、浜北、天竜の各市等の合併、静岡市は静岡、清水の両市の合併により大きく人口を伸ばしたものである。20大都市の変化の最大の理由はこのような大規模合併によるものだが、合併後の市域で平成12年の人口と今回の人口とを対比すると、さいたま市広島市を、仙台市北九州市を、岡山市熊本市をそれぞれ追い越している。また、このところ人口減少気味だった北九州市は、ついに100万人の大台を割ってしまった。なお、大都市を対象とする政令指定都市については、合併による新市のうち既にさいたま市静岡市は指定されており、堺市も決定済み、浜松市新潟市岡山市もその方向の動きを見せている。

  東京23区を区別に見ると、前々回の調査では江戸川区練馬区以外の各区はすべて人口が減少していたのだが、前回調査では4区を除いて人口増加に転じ、今回は更に進んですべての区の人口が増加した。これまた昭和30年以来のことであり、特に中央区の人口は、35.3%増と全国トップの伸びを示したし、港区、千代田区も15%以上の増と、都心の復権が著しい。前回も書いたように、地価の低位安定とこれに伴う住宅再開発の進展とともに、都心回帰の傾向が顕著に現れている。

  ここで、5年前の2001年4月号の本誌で書いたことを再掲してみよう。「このところ、県庁所在地又はこれに準ずるクラスの都市で人口減少傾向が続いている都市がいくつか目に付く。列挙して見ると、函館、釧路、日立、前橋、横須賀、岐阜、清水、大阪、堺、東大阪豊中、尼崎、和歌山、呉、下関、北九州、長崎、那覇といったところである。・・・その傾向に拍車を掛けたのが今回の調査結果で、旭川、八戸、いわき、福井、甲府、静岡、沼津、高槻、寝屋川、徳島、佐賀等、これまで人口増加が続いていた諸都市の人口が減少に転じたのが目に付く。」
  この前回の傾向に、今回の調査は更に拍車を掛けている。以上の諸都市の中で、今回人口が増加したのは、大阪市堺市那覇市の3市のみである。更に、これらと同格の都市で今回人口が減少に転じたのは、青森、盛岡、秋田、福島、金沢、長野、松本、明石、奈良、松江、高知等の諸都市であり、人口減少傾向は、多数の地方中核都市にまで及んで来た。

  これらの中で目を引くのは、大阪市が久々に人口増加に転じたことだろう。大阪市の人口は、昭和40年を戦後のピークとしてずっと減少傾向にあったのだが、今回は久々の人口増加である。
  大阪市は、大都市の中では最も面積の小さい都市の一つであり、東京23区の約3分の1、横浜市の約2分の1の面積に過ぎず、同市の人口減少傾向は、大阪大都市圏の中での都心空洞化の現れだったと思われるが、東京23区の復権と同様、大阪市の場合も都心回帰現象が生じて来たと見ることができるだろう。他方、奈良市の場合、大阪都市圏のベッドタウンとして、県全体とともにこれまで人口が大きく伸びて来た地域だが、その奈良市奈良県の人口が減少に転じたということは、前に触れたように、大都市圏の拡大に歯止めが掛かったということの一つの現れなのかも知れない。

  前回を更に加速した形で、「都心回帰」が進み、その裏返しとして、周辺部の伸び悩みあるいは減少という「地域の選別」の時代に入って来たということが言えるのではないかと思う。

 
 市町村の動向――人口減少市町村70%以上に

  県別の動向と個別の大都市の動向は前に見たが、それでは市町村単位で全国を見るとどうか。
  今回の2,217市町村の単位で、人口減少市町村の比率を見て行くと、平成2年から7年にかけての54.8%、7年から12年にかけての63.9%に対し、今回調査では72.4%の市町村の人口が減少しており、極めて顕著な増加を示している。特に、北海道、東北、四国の人口減少市町村の割合は、85%を超えている。
  人口減少市町村の比率が最も低い関東地方を見ても、上記の期間の減少市町村数の比率は、24.4%→45.1%→57.6%とその増加が顕著である。ついでに県別に見ると、茨城県14.8%→50.0%→66.7%、栃木県37.5%→47.5%→62.5%、群馬県46.3%→53.7%→70.4%、埼玉県10.2%→35.9%→61.5%、千葉県25.7%→52.7%→62.2%と、東京都と神奈川県を除いては、ほかの地方の人口減少市町村比率に近付きつつある。これまでいわば一人勝ちだった関東地方も、安閑としてはいられなくなった。

  個別の市町村の中での前回からの増減の顕著な例を見ると、噴火のための全島避難により前回人口ゼロとなっていた東京都三宅村は2,000人台を回復し、伸び率で言えば無限大になったわけだが、これを別格とすれば、京都府精華町の29.9%増を筆頭に、富山県舟橋(ふなはし)村、埼玉県滑川(なめがわ)町の3町村だけが人口増加率20%を超えている。なお、東京23区を区別に見れば、前に見た通り、中央区の35.3%がこれらを大きく上回っている。
  他方、減少率が最も大きかったのが、群馬県上野村の33.0%減であり、長野県南相木村青森県西目屋村奈良県川上村が20%を超える減少を示している。減少率第1位の上野村は、揚水発電所の建設工事のため、前回は全国第2位の人口増加率を示したのだが、工事の終息とともに以前の姿に戻り、大幅な減少になったようである。

  これまで見て来たデータから今後の状況を想像すると、一部の地域を除き、人口は減るものだという前提で、ものごとを捉える必要があるということが更に明確になって来たと言えるだろう。更にその中で、大都市への人口集中、大都市圏外郭部を含む地方の人口減少という傾向がいよいよ進んで来そうである。地方中核都市も、一部の有力都市を除けば例外ではない。
  効率化という視点だけで捉えれば、それも一つのシナリオなのかも知れないが、我が国国土のあるべき姿を考えたとき、大都市のみが栄え、地方が疲弊するということで本当に良いのかどうか、原点に立ち返った本格的な検討が迫られているのではないか。

 
 市制候補生――足腰の弱い市も

  これまでの4回の例に従って、このタイトルで話を締めくくることにしよう。もっとも、合併特例により、元来の要件を欠いた「裏口入学市」が多数誕生したし、更に17年度内にもかなりの数の新しい市の誕生が予定されており、「市」というものの性格がかなり変わって来たという面はあるが。
  前回調査から今回の調査までの5年間に96市が新しく誕生したが、このうち単独で人口が5万人を超えた本来の市は、滋賀県栗東(りっとう)市、千葉県の白井(しろい)市と富里市茨城県守谷(もりや)市、沖縄県豊見城(とみぐすく)市の5市に過ぎず、残りの91市は合併特例による産物である。なお、前回5万人を超えた岩手県滝沢村と広島県府中町は、まだ市制を布いていない。滝沢村は盛岡市近郊の村であり、府中町広島市に周囲を取り囲まれた町である。いずれも合併問題等があって、単独市制施行に踏み切れないのではないかと思う。特に府中町の場合、平成2年調査以来、5万人を超えているにもかかわらず、「町」のままで推移している。
  合併特例によって誕生した91市のうち、合併により5万人以上の人口に達して市制を布いたものも28市あるが、他方、今回調査の結果、3万人という特例基準すら下回るに至った市が、兵庫県養父(やぶ)市、岐阜県飛騨市秋田県にかほ市山梨県上野原市熊本県阿蘇市広島県江田島市の6市に達する。必ずしも理に叶っているとは言えない合併特例により、都市基盤を欠いた足腰の弱い市が生まれることをかねがね懸念していたのだが、早くもそれが顕在化して来たとも言えそうである。中途半端な寸足らずの「市」になるより、立派な「町」として胸を張っていて欲しかったという気がしないでもない。

  では、これからの市制候補生はどこか。今回調査で人口5万人を超えた町村は、愛知県三好町、前回に続いての岩手県滝沢村、和歌山県岩出町、それに4回連続の広島県府中町の4町村であり、三好町岩出町は遠からず市制を布くのではないかと思われる。これらに続くのが、4万7千人を超える千葉県大網白里町、埼玉県白岡町、愛知県東浦町茨城県阿見町、石川県野々市町、神奈川県寒川町といったところであり、5年後の有力候補と見ることができるだろう。
  前にも触れたように、これらのほかにも合併特例による新市として、年度内に誕生し、あるいは誕生が確定しているものが32市あるが、紙面の都合もあり個別の名前は省略したい。
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  以上、性懲りもなく20年の長きにわたってお邪魔させて頂いた。できることなら、また5年後、10年後にもお目に掛かりたいものである。
         (経済産業ジャーナル4月号所載・経済産業調査会刊)