題詠百首選歌集・その21
ゴールデンウィークも終わりが近付いた。皆様お疲れ様でした。また、これからのお仕事ご苦労様です。「硬派」にひと区切りを付けて、選歌集その21をお届けします。
選歌集・その21
008:親(175〜199)
(長沼直子) 抱きしめるすべをなくして親指と薬指だけマニキュアはあか
(小早川忠義)鈍色の疲れに親しむ真夜なればストレートティー喉になじます
(黄菜子)うつしみの親子一世の契り終え吾が子二十歳の骨のちひさき
011:からっぽ(156〜181)
(矢野結里子)帰宅してビールのみつつテレビ見て いつしか寝てる きょうもからっぽ
(内田誠) からっぽになったわたしのぬけがらが空を塞いだ自意識に舞う
(寒竹茄子夫) からつぽの繭と思(も)ひしが糸をはき睡るかひこのいくひやくの夢
017:医(126〜151)
(中村うさこ) 休日を街に会ひたるわが主治医子と手をつなぎ顔のほころぶ
(寺田 ゆたか)・そのかみの口べたの友 海碧き岬の町で医を業とせり
(村上きわみ)峠ふたつ越えし町より群青の影つれてくる馬医とその妻
018:スカート(121〜147)
(里坂季夜) とりどりにおもわせぶりをひるがえすスカート咲いて街は花冷え
(睡蓮。) スカートをお久しぶりにはいた日はやせる思いの脚に春風
(飛鳥川いるか)なせばなると信じてゐましたスカートの折り目正しき小娘でした
(寺田 ゆたか)・軽やかに白きスカートひるがえし駆けよるひとに花ふりかかる
(中村うさこ)よちよちの娘(こ)にはじめてのスカートを着せしかの夏 夢多かりき
019:雨(118〜134)
(にしまき)声高に季節知らせる交差点眩しく香る雨上がりの朝
(萱野芙蓉) 北向きの窓をうつ雨こまぎれの文字がことばに成らぬかなしさ
(寺田 ゆたか)・すきとほる柿の若葉のうすみどり はつかに濡らしこぬか雨ふる
(中村うさこ)踏切の警報近く鳴る夕べ東風冷え冷えと雨になるらし
024:牛乳(96〜121)
(まゆねこ)牛乳を飲まずに消えたあの日からノラの行方を風も知らない
(里坂季夜)ひいやりとぼくのまんなか降りてゆく牛乳 たぶんここまでは白
(睡蓮。)ひざかかえ牛乳びんの底にいて見上げるフタのような満月
025:とんぼ(90〜114)
(飛鳥川いるか) 易々ととんぼがへりする少年の秋草のやうな腋毛みてゐる
(まゆねこ)[赤とんぼ]歌い終わりて会場に夕焼け色のこころ溢れる
(空色ぴりか) 殻を抜け羽化したばかりのとんぼにも降りそそぐらむ夏至の太陽
(佐田やよい) 点々と星をつないだ虫かごにとんぼをいれて夏と別れる
026:垂(93〜119)
(まゆねこ)紫の花の枝垂れて結界を分かつ如くに藤の夕暮れ
(田丸まひる)これ以上だれをゆるすの 垂直にふる五月雨にまで責められる
(寺田 ゆたか) ・雨垂れは軒端を伝い落ちてくる 鬱 閉じ込めし小さき水滴
(きじとら猫)華やかなときは短く夏空に枝垂れ柳の未練が残る
034:シャンプー(57〜82)
(斉藤そよ)ハミングもされなくなってひとり湯に忘れられゆくシャンプーの歌
(秋野道子)シャンプーの終わったあとの濡れ猫はあっけらかんと痩せ細ってる
(濱屋桔梗)吊るし売るシャンプーハットに蘇る父と入りし団地の風呂場
(新野みどり) 君の吸う煙草の残り香消したくていつもの2倍のシャンプー使う
035:株(58〜82)
(野良ゆうき) ケータイで株価をチェックする君のとなりで海をみていた九月
(紫峯)伐り株のあらわになりし斜面より四月の空の青立ち上がる
(みあ)合併でどこへ行くのか町の名がまた遠くなる雨の切り株
(飛鳥川いるか)匹よりも株がふさはし明星(あかぼし)の悪魔かぞふるときの助数詞
052:舞(26〜50)
(かっぱ)舞うはずの粉雪を待つジャケットをわざと忘れて会う日曜日
(愛観) 大銀杏ひかり散らして春は逝き がらんと風が抜ける舞殿
(濱屋桔梗)蒸し暑いスタッカートに揺られゆく排気混じりの風舞う列車