題詠百首選歌集・その22

  仕事を離れた身にとっては、ゴールデンウィークは縁のない存在だが、それでもその終わりは、少し寂しい気がしないでもない。このところ天候も不順だ。
  ところで、選歌に当たっては、まず、25首程度貯まった題につきネットから全作品を私のドキュメントに移し、その中で比較的好きなものを残して「予選通過作」とし、そこから更に選んだものをこの選歌集に入れているのだが、「題」によっては余り好きな作品がなく、多少物差しを短く(長く?)して選んでいる場合もある。逆の場合もある。今回の「嘘」は、好きな作品が多く、「少し多すぎるかな」とは思いつつ、余計な「調整」は差し控えた。歌詠み人には「嘘」が似合うのか・・・・。「選歌」の物差しも少しぐらついており、選歌に相変わらず自信が持てないのも、正直なところだ。

 選歌集22

007:揺(178〜201)
  (今泉洋子)思春期の子はぐらぐらと揺らぐ楡わが身の丈をこの夏越えぬ
  (桑原憂太郎)二時限目の最中に来る女生徒の麻のカバンにキテイが揺れる
  (びっきい)加齢臭漂わせつつ熟年の二人が揺れるダンス教室
012:噛(156〜180)
  (今泉洋子)海鼠酢をぐにやりくにやりと噛む真夜にふと甦る前世の記憶
  (内田誠) 味気ない氷のような真実と知りながら噛む夏の結末
  (黄菜子)砂を噛むおもひもありき啄木忌北窓を開け風を待ちおり
013:クリーム(143〜167)
 (今泉洋子) 散り初むる桜に通ふわれの生美肌クリームたつぷりと塗る
  (日和小春)もうすでにとろけてるようなクリームを売っている君と買っている僕
  (新藤伊織)空間は透明なふりしてるだけクリームパスタが冷めないように
016:せせらぎ(132〜156)
  (笹井宏之) せせらぎを売ってくらしている人にうっかりであえそうな夕映え
  (今泉洋子) 着メロは初夏のせせらぎ雑踏の都会の渓に低くひびかふ
020:信号(120〜143)
  (舞姫)信号無視しちゃったようなデートだと小さく笑い裏路地をゆく
027:嘘(89〜114)
 (みの虫)変身の帯を締め上げ春の夜からくれなゐに嘘はあふるる
  (ひぐらしひなつ)縁先に仕込む蚊遣りの渦巻に火ともす指を嘘が揺らめく 
 (飛鳥川いるか)芬々ときらめく嘘をしたたらせ純愛映画いま果てむとす
  (村上はじめ)嘘だけで繋がっていたあの頃の 雨の記憶がふと蘇る
  (まゆねこ)嘘でなくわたしの憧れ言っただけ桜花びら蒼空へ散る
 (里坂季夜)はみだした本当のことをくるみこむきれいに嘘のこげめをつけて
  (水沢遊美)君がつく彩とりどりの嘘たちをジャムの小瓶にそっと詰めこむ
  (瑞紀) しかたなくつかねばならぬ嘘があり淋しくをりぬ人のあはひに
 (クロエ) 沈黙の合間を煙草が埋めている受話器のむこう嘘を馨らせ
  (佐田やよい) ぽっつりと切れてしまった赤い糸 五十二個めの嘘のおもみで
  (末松さくや) 嘘つきをなおす自信がもてなくてはりせんぼんが泳ぐ水槽
  (ことら) 真っ白な嘘を固めた塩竃の中で骨まで焼かれておりぬ
  (中村うさこ)老いてなほ愛のことばにときめきぬ歯の浮くやうな嘘と知りても
  (田丸まひる)ラムネ玉つつく舌先 嘘はもう一生分をついたからいい
028:おたく(84〜107)
  (くろ) おたくのが遊びにくるとほほゑまれいまだ見ぬ猫がわれにゐるらし
 (末松さくや)「カラオケ」も「おたく」もわかるキャサリンはぼくの名前をうまく言えない
029:草(82〜106)
  (はるな 東)白足袋をするりと草履にすべらせて身をひきしめる衣擦れの音
(中村うさこ)春昼を遠足の子ら帰りくるしろつめ草の冠を手に
036:組(63〜87)
  (鈴雨)つえ放し早五年(いつとせ)がたつ吾とゆび組みあゆむ君は変わらず
  (みにごん)少しだけ歪な二次曲線を書き組み替えてゆく足のいくつか
  (みずすまし)はるかなる宇宙(そら)の果てまで組まれたる小さき星に吾在る不思議
  (みあ)特売のたまごはスクラム組まされてよい子よい子のふりをしている
  (佐田やよい) 組曲を星が奏でる夏空にビー玉ふたつしのびこませて
  (寺田 ゆたか) ・汝が胸の淡き縹(はなだ)の組紐の先に光れる十字架(クルス)かなしも
037:花びら(61〜85) 
  (佐藤紀子)透明な白を重ねて咲き満ちる大島桜の八重の花びら
  (斉藤そよ)みたされてさくら花びら降るごとくこどくあかるくひかるかがやき
  (紫峯)花びらが水面(みなも)を下る花いかだ みな一様に添いて漂う...
  (島田久輔) 花びらの舞いちるきおく クラス替え・ゲタ箱・教室・担任教師
  (佐田やよい) 誰も見ない桜の下の午前四時 花びら落ちたベンチに眠る
  (みあ)色あせた花びらばかり押し込めた宝石箱の封印をとく
  (みの虫)木の下に散りて敷きつむ花びらよ日記に綴る片恋のごと