題詠百首選歌集・その24

  しばらく「選歌」から離れているうちに、やっと在庫が少し貯まってきたようだ。ぼつぼつ「選歌」を復活させることにしよう。

   
  選歌集・その24


001:風(231〜256)
 (星川郁乃)南風だけが背を押す ゆうぐれの新興住宅地への上り坂
 (香乃)ビーチには素足の色もさまざまに風を集めて 椰子の木の島
002:指(236〜262)
 (もりたともこ)指先で星をつないで描(えが)きだす願い 陽射しに隠されるまで
 (ゆづ)呼吸器のひとつひとつを愛でている指が知らない生物になる
004:キッチン(212〜244)
 (星川郁乃)キッチンは対面式で まっすぐな背中とまるい背中がみえる
(春村蓬) 白妙のキッチンペーパー広げてはあした手紙が届くと思ふ
005:並(199〜223)
  (月待ち人の窓辺) 春霖(しゅんりん)の朝の花屋に鉢植えの紫陽花の藍(あお)はや並びをり
(寒竹茄子夫)並の世に並のたつきを暮らしをり晩涼の風ふところ過ぎる
010:桜(175〜200)
(nao-p♪)遅咲きの桜の下で君宛てに 取り留めもないメールを送る
(柴田菜摘子)愛しさは憎しみになる 校庭の桜の幹を彫った寒い日
(落合朱美)白無垢を愛でて華やぐ桜湯のほのかに香る親族の部屋
018:スカート(148〜181)
(寒竹茄子夫)バグパイプ吹けるスコットランド楽士チェックのスカート色褪せて冬
(新藤伊織)制服のスカート丈が気になって風が吹くたび女になるの
(黒田康之) スカートは初夏の風孕みたり少女らの群れ絶えぬ真昼間
019:雨(135〜160)
今泉洋子) 二尺とふ子規の目尺の確かさよ雨に濡れゐる薔薇を切りつつ
(yurury**) 雨水は溝の低きに渦巻きぬ 頑是なき身の裂け目描きて
031:寂(84〜110)
(はるな 東)毬をつく良寛恋しと寂聴をみたびひらけば鈴の音する
 (寺田 ゆたか)・「寂しければ」と頭に詠めるうたありて吉井勇の土佐の籠り居
(David Lam) 寂聴の十二枚組法話集折込みチラシいつも月曜
(笹井宏之)寂しさでつくられている本棚に人の死なない小説を置く
(里坂季夜)ペディキュアのラメがこぼした寂しさに気づかぬふりの夏のローファー
032:上海(83〜109)
(やすまる) 微笑んで投げあう言葉は届かずに上海冷茶で手ゆびを滌ぐ
(寺田 ゆたか)・ほろ酔えば友は唄えり 語尾かすれ呟くような上海ブルース
(萱野芙蓉) 上海の闇のまほらを恋ひしがる身ぬちの水をなだめて眠る
042:豆(56〜81) 
佐藤紀子) 寄せ豆腐匙に掬へばプルルンと震へて夜の灯に光りたり
(佐田やよい) ざわざわと光がそよぐ水無月のにおいをつれて空豆がくる
(みあ)しょりしょりと小豆あらいに誘われる千曲の岸から暮れてゆく空
043:曲線(60〜84)
(五十嵐きよみ)ダリの絵の曲線のごと一晩の記憶だけまだ歪んだままに
佐藤紀子) ひらがなの「ひ」の字の描く曲線に涙の壷が隠されてをり
(ワンコ山田)感情の揺らぎあらわな曲線を眉に描きあげ鏡から出る
(みあ) 母だから女をたたむ指さきでお臍の下の曲線さわる
056:とおせんぼ(30〜54)
(暮夜 宴)通りゃんせ通りゃんせって言いながらとおせんぼする背中 いじわる
(秋野道子) とおりゃんせ鳴る歩道には背の高い白い車がとおせんぼする