題詠百首選歌集・その25

  これで在庫整理が一応終わった。暫くは、また在庫が増えるのを待つことになるのだろう。

  注:「題詠百首」をご存じでない方には、何のことだかお判りにならないと思いますので、多少ご説明を致します。「題詠百首」というネット短歌の催しがあり、私も去年から参加しています。投稿された歌の中から、「百人一首」を作ろうと思い、実はそれが動機で昨年ブログというものに手を染めた話でもあります。その百人一首の前段階として、私なりに勝手な物差しで「選歌集」を載せているというのが、話の経過です。


    選歌集・その25

009:椅子(185〜209)
 (寒竹茄子夫)秋冷の椅子きしむさへ淋しきに無人の教室、青墨の文字
021:美(119〜152)
 (小早川忠義)美しく生きよと諭す助教授の笑ひ皺なる白粉の筋
022:レントゲン(118〜150)
 (今泉洋子) レントゲン終へ止まりたるたまゆらの時間ふたたび流れ始めぬ
 (笹井宏之)レントゲン室に取り残されたまま誰かを待っているような午後
023:結(113〜146)
 (中村うさこ)結(ゆひ)といふやさしき習慣(ならひ)いまはなく春立つ野辺に人影まばら
 (市川周)結論は小鳥がひいたおみくじにまかせて二人海を見ている
024:牛乳(122〜146) 
 (矢野結里子)おかあさん今日ね とび箱とべたんだ ガラスのびんのつめたい牛乳
025:とんぼ(115〜140)
 (今泉洋子)蛍棲みとんぼ飛び交ふ池の面(も)をやんはり撫でて黒南風(くろはえ)の吹く
033:鍵(81〜112)
 (田崎うに)花園の君の寝息を置き去りに鍵穴まわす銀色の朝
 (富田林薫) さよならはポストの中の鍵を見てそういうことかとわかる夕暮れ
 (佐原みつる)触れられることのないまま鍵盤がゆっくり枯れてゆく廃校舎
054:虫(31〜59)
 (暮夜 宴)弱虫は棘で武装をするのです海胆とか栗とか暮夜宴とか
 (中村成志)あおむけに濡れそぼちゆく甲虫の収まりきらぬ羽は萎れて
  (愛観) 時折に微かな声で鳴く虫を胸に飼ってる恋の始まり
057:鏡(30〜57)
(五十嵐きよみ) 口紅をなおすふりして手鏡に映すあなたと若いこいびと
058:抵抗(30〜57)
 (青野ことり) 抵抗を許さぬ理詰め正しさがすべてではない 雲がほどける
(夜さり) 肉叢の「四十八歳の抵抗」にほのほ燃やしてをとこたち枯る
059:くちびる(31〜58)
(NOTHING WORKS) くちびるに色を纏いて少女らが大人に変わる春の暁。..
(ゆあるひ) 連休も五日続けばくちびるを開かず終える一日もあり
(愛観) 面影は夜明け間近の浅い夢くちびるだけで微笑うサヨナラ
(五十嵐きよみ) くちびる、とひらがなになる甘やかな愛のことばを囁くときは
060:韓(31〜55)
(かっぱ)韓国の土産にキムチを買うような愛し方しかできなくなった
(中村成志) 回廊に「韓」の字のごと宝冠を寄せて女童(めわらわ)ならびゆく影
061:注射(28〜53)
(中村成志)内肘のやわらかい肉さらけ出し注射の痕を指でかぞえる
062:竹(28〜53)
(謎彦)楚のくにの夏はまみづにあふれむか竹枉(ま)げてなす葬具いろいろ
(斉藤そよ) はじめての節目を持てり竹として五月満月(ごがつまんげつ)待つております
067:事務(25〜50)
(遠山那由)視線ちらりと投げてみるだけ事務室となりはてている職員室へ
(水都 歩) 事務的な会話に疲れひとり行く行きつけのカフェいつものホット
(中村成志)元結をちぎってすてて事務用の髪ざんばらに戻す地下道
(濱屋桔梗)事務的に交わす電話に混ぜ込んだ二人だけ識る秘密の符号