題詠百首選歌集・その27

選歌集その27(作品の番号を付け忘れていたので付け加えました。6月11日)



017:医(152〜176)
(黒田康之)人混みですれ違ひたる男から医師であるかの臭ひする夜
(新藤伊織)医学書の最後のページに挟まった花の名前を探しています
044:飛(57〜81)
(ざぼん)シャボン玉が終わった後は夕闇に飛べないわたしを隠していたい
(みあ)飛ぶことの出来ない紙のひこうきをまた折る赤く燃えるのがいい
050:萌(52〜76) 
(寺田 ゆたか)・草萌えず斑(はだら)の雪の残りたる宗谷丘陵に動くもの見ず
佐藤紀子) 白樺の若葉が萌える五月末 一番乗りの燕が戻る
(みあ)萌える野でシロツメクサをちぎるとき命の糸がからまってくる
(紫峯) 廃校の花壇の跡に萌えいでし大和菫の微かに香る
(澁谷 那美子)萌えいづる春は去り行き 茂りたる夏が私の街に来たりぬ...
064:百合(29〜54)
(ゆあるひ)住職の仕業か風の気まぐれか主無き墓所に白百合の咲く
(五十嵐きよみ)袖口に百合の花粉がついている情事のあとの麻のジャケット
065:鳴(27〜51)
(暮夜 宴) 調律が微妙にずれているらしく不協和音の鳴り止まぬ春
(ゆあるひ)難解な推理小説読み終えて煩きまでに雀鳴く朝
066:ふたり(27〜52)
(暮夜 宴)それぞれに違う星座を見つめてる背中合わせのふたりはひとり
(濱屋桔梗)予期しない何かが生まれそうだからふたりになると怖くなります
(ゆあるひ)どうしても重ねることができなくて並べて見てるふたりの記憶
(原田 町)一匹とふたりが並び夕陽みる太郎の時間とわれらの時間
(寺田ゆたか) ・目を合はせ黙(もだ)せるふたりやがてそと冷たき指にふれて別れぬ
068:報(27〜51)
(暮夜 宴)深刻になることなんて何もない天気予報はいつも快晴
(謎彦)エッシャーの滝のふもとに臥しまろび待たむ果報のひとつやふたつ
(スガユウコ) 彼方より届く報せか右脳にて知らぬ時空の映像を見る
(原田 町)また惨き報道ありて子供らは籠りておるかこの新緑に
069:カフェ(26〜50)
(animoy2)カラリンとカフェで氷が溶けるとき ひとりもすてきすずらんの頃
(水都 歩)昼はカフェ夜は酒場となる店のタバコの匂い苦いコーヒー
(中村成志)来訪の目印として〈カフェすず〉の香りを地図に書いて手渡す
(濱屋桔梗) 運ばれたカフェ・オ・レが少し熱すぎて木枯らしの吹く外を見ていた
(寺田ゆたか) ・オペラ座の灯ともし頃はカフェに入りつのる愁ひをかみしめてみる
071:老人(26〜50)
(西宮えり) 園庭の狭まり深みかろやかに老人の家カラメリゼ咲く
(ドール) 父倒れ何処へも行けぬ夏休み「老人と海」を初めて読みき
072:箱(26〜50)
(水都 歩)世の中を何も知らずに逝きし子の白木の箱に降る花吹雪
(愛観) 諦めるたび胸のすみ空箱がかさり乾いた音立てている
(ドール) ぎっしりとダンボール箱に詰め込まれ送られてくる故郷(ふるさと)の春