題詠百首選歌集・その28

   選歌集・その28


007:揺(202〜226)
 (落合朱美) 頼りなき記憶を手繰りくちづさむ揺籃歌に見る母の面影
008:親(200〜225)
(智理北杜)上手には作れないけど親子丼夜勤帰りの妻にさしだす...
(わたつみいさな。) 親指がためらっているありふれた四文字のための送信ボタン
011:からっぽ(182〜206)
(ケビン・スタイン) からっぽのプールの底で光ってるビー玉とあのありふれた午後
cocoa)砂時計見つめています からっぽの部分に過去が満ちてゆきます
(内田かおり) 穴ひとつ見つけて小石を入れる児はからっぽなどとつぶやきながら
016:せせらぎ(157〜181)
(黄菜子) 春色に爪染めて今日せせらぎにらららと歌えばるるると流る
(新谷休呆)絶え間なきせせらぎの音副菜に蕎麦啜りゐる山あいの里
030:政治(117〜142)
(佐原みつる) 政治家の声のどれもが似かよって初夏の日差しに吸い込まれゆく
(桑原憂太郎) 校長の善処しますの一言で御破算になる校内政治
031:寂(111〜135)
(みち。)「寂しい」を呪文のようにくりかえす きっとほんとに寂しくなるまで
(折口弘)寂しいと告げる相手のないままにネクタイ締めて会社に向う
今泉洋子)静寂が小間の茶室に極まりてあけぼの椿咲(ひら)く気配す
032:上海(110〜134)
(智理北杜)映画より舞台の吉田日出子がいい 「上海バンスキング」に思う...
036:組(88〜115)
(佐原みつる) いいわけを考えるのもめんどうで組立式の本棚を買う
037:花びら(86〜110)
(中村うさこ)おそるおそる太巻切れば花びらの紅の田麩がぽつぽつと散る
(ことら)人肌に似る色もなほ業なりや ただやわやわと花びらの降る
(里坂季夜)花びらを抱き起こしては捨ててゆく風を見ていた 今日も見ている
038:灯(86〜110)
(中村うさこ) 停電に蝋燭ともし思ひ出す死語となりたる灯火管制
(萱野芙蓉) 灯台の伸びあがる午後すこやかにわれは夏へと気化しはじめる
051:しずく(52〜77)
(野良ゆうき) 早春の葉っぱの先でたよりなく揺れるしずくのようなさよなら
(寺田ゆたか)・日のしずくしたたりやまぬ野に出でてタンポポの黄を摘めば春往く
(五十嵐きよみ) 耳たぶに真珠のしずく わたしより不幸にされた彼女を妬む
(紫峯)水色の雨のしずくの美しき かの日に聴きし歌のありけり...
(松本響)赤色のしずくが落ちてはずむとき目覚めはじめる林檎の記憶
073:トランプ(26〜51)
(寺田ゆたか) ・クリムトの「接吻」の絵のトランプを購ひし店 ひとに教へず