題詠百首選歌集・その30

 このところずっと風邪気味。何となく体に力が入らない感じで、食欲もない。まさか年齢のせいではないとは思いつつも、いまひとつ体に自信が持てないのも正直なところだ。それはそれとして、題詠百首選歌集・その30。



012:噛(181〜205)
(星桔梗)噛み砕く言葉も知らずぽつねんと時が止まって二人は他人
(星川郁乃)噛み切れぬ蛸を飲み込む問いたくて問えないこともひといきに飲む
(内田かおり)園服の袖噛みながら参観にまだ来ぬ母を探す眼のあり
013:クリーム
(本田瑞穂)関連のちょっときびしいお知らせはクリーム色のファイルにはさむ
(さんさしおん) 衰亡史ある文明のあまたなりソフトクリームなめつつ思う
(内田かおり)ままごとの器にふわりとお花紙アイスクリームどうぞと5月
022:レントゲン(151〜177)
(黄菜子)レントゲンに透かされし身を駅前のカフェにけだるく入り込ませり
(内田誠) とりとめのないせつなさがレントゲンフィルムに青く転移している
023:結(147〜173)
(折口弘) 解(ほど)けない糸の結び目切りたくて根気の限度にさぐりを入れる
024:牛乳(147〜172)
(黄菜子) 青空にきつねの嫁入り通りゆき牛乳色の猫いできたる
(本田瑞穂)寝る前に牛乳すこしあたためてこの部屋列車の音がきこえる
025:とんぼ(141〜166)
(折口弘) 夕暮れにとんぼを追いし野の道の次の景色が思い出せない
(ケビン・スタイン) 街角をいきなり曲がる 最初から行き先決めたとんぼのように
033:鍵(113〜140)
舞姫)シリンダーに鍵をさしこむ行為すら官能的になる朝帰り
(田丸まひる)すこやかなひとの鍵穴こじあけるための言葉がざらざら苦い
042:豆(82〜106)
(中村うさこ)熟れすぎぬうちにと採りし枝豆の恥ぢらふごとしそのうすみどり
(小籠良夜) たまさかのひとりよがりは知られざり珈琲豆を煎る苦き朝
043:曲線(85〜110)
(やな)触れることの許されてない双曲線 雨がよく降るはつなつだった
(方舟) 曲線の緑の起伏穏やかに涅槃の姿に似たる里山
052:舞(51〜75)
(寺田ゆたか)・「咲花(さきはな)」てふ名さへゆかしき駅過ぎぬ春のぼた雪舞ひ舞へる中
053:ブログ(52〜78)
(寺田ゆたか) ・丹念に花の記録を書き継ぐる友のブログにコメントは来ず
(五十嵐きよみ) 揺れ惑う心が夜ごと匿名のブログに書かれているかもしれず
佐藤紀子)読み返す我のブログの今日の欄 事実八割、脚色二割
(笹井宏之)ウェブログの最終記事のさよならが風になるまであなたを待とう
080:響(27〜52)
  (青野ことり) 夕暮れを告げる鐘の音響くころ ひとりにひとつおかえりなさい
082:整(25〜49)
(中村成志) とりどりの緑の映えを整えてサラダうどんを食卓に出す