題詠百首選歌集・その31

 ご心配をお掛けしましたが、風邪もようやく治まって来たようです。引き続き、選歌集・その31。


006:自転車(217〜241)
  (智理北杜) 自転車に乗りつつ交わす「おはよう」の声が桜の花びら揺らす...
  (澁谷 那美子) 自転車で 急ぎし帰路の その先に 待つ人のなき 春の過ぎゆく...
  (繭)自転車の後ろに乗ってどこまでも行ける気がした 高3の夏
014:刻(170〜194)
(あんぐ)長ネギを刻む幸せ満ちている 男のための料理教室
(幸くみこ)パンケーキ格子に刻みシロップを浸す あなたをもう逃がさない
026:垂(145〜169)
舞姫)垂れた目をもっと垂れ下がらせたくて会話に織り込む甘い冗談
(黄菜子)みちのべに金糸梅の黄の撓垂れてつゆのあとさきをひかりゆくまで
034:シャンプー(110〜134)
(ちゅう)爪を立て眼もつり上がり荒き息 猫のシャンプー又も日延べす
(みち。) さわれないやさしさなんてほしくない シャンプーだってひとりでできる
(田丸まひる)シャンプーのにおいが同じふたりなど羨んでない健全な朝
055:頬(52〜82)
(小早川忠義)心には洞穴あれば吐露したきをひたすら抑へ飯を頬張る
056:とおせんぼ(55〜80)
(あんぐ)勝ち組の門閉ざされてとおせんぼ 一人つぶやく負けるが勝ちと
(笹井宏之)とおせんぼしあったことも日に焼けた畳も遠いテネシー・ワルツ
(紫峯)炎天の七月の庭おそろしく誰かが誰かをとうせんぼする...
081:硝子(26〜52)
(髭彦)煤覆ふ硝子かざして日蝕を見よと教へし亡父(ちち)の若かり
(ゆあるひ)捜すのは大変だよとうな垂れて硝子の靴をただ待っている
(ふしょー)今はもう記憶の中に眠るだけ父のビー玉 翠嵐硝子
(寺田ゆたか) ・立て付けの悪き硝子戸ゆさぶりていねがたき夜を黒南風(くろはえ)の吹く
(小早川忠義)硝子越しの微笑みなれば微笑みを返す間もなく君立ち去りぬ
(愛観) 花曇り硝子細工の白鳥の割れた翼も空を見ている
083:拝(26〜52)
(西宮えり)花の日の礼拝のためひよひよと純正律の練習をする
(暮夜 宴)春の陽はステンドグラスからこぼれ礼拝堂の小さな祈り
(寺田ゆたか) ・礼拝の人出(い)できたる聖堂の外は物乞ひ居りて雨降る
084:世紀(26〜52)
(秋野道子)いつまでも新幹線と呼ぶように二十世紀という梨がある
(中村成志)6年の余白を潰し刻々と僕の世紀が目減りしてゆく
(寺田ゆたか) ・夢にみし十九世紀末のことマーラー通りウイーン裏町
085:富(26〜50)
(澁谷 那美子)富といふ幻追ひて滅びゆき夏草群れし跡多きこと...