題詠百首選歌集・その32

 去年も何度か書いたことなのだが、自分より優れた方の作品を含め気まぐれな選歌をするということは、「神を恐れぬ」所業のような気がしないでもないし、あまり快く思っておられない方がおられても当然だとも思う。また、私自身にとっても、かなりの負担になることは事実である。
 他方、この気まぐれな選歌をある程度評価して下さっている方もおられるようだし、私自身も、ブツブツ言いながら、結構楽しんでいることも否定できない。いずれにせよ乗り掛かった船なので、私なりに「誠実に」選歌した上で最後の百人一首につなげるという方針は、今年も貫徹するしかないのだろうと思っている。毎度お馴染みの言い訳に過ぎないのだが、全く個人的な「お遊び」ということで、参加者の皆様にも、短歌の神様にも、お許し頂くしかあるまい。

 なお、選歌の方法は、以前にも書いたように、投歌の数が25首以上貯まった題について選歌し、原則として10題貯まったらブログに載せるという方法を続けている。締切り間近の頃になれば、当然その方法を変える必要も出て来るだろうが、それはまだかなり先の話だろう。
 余計なコメントが先に立ったが、選歌集・その32をお届けしたい。


003:手紙(232〜258)
(ハル)捨てられた手紙のような心抱く音楽だけが優しい夜に
(るくれ)浴びるほどもらった手紙の封筒の数だけあなたの未来を背負う
021:美(153〜177)
(幸くみこ) 「責任を逃げないとこが美点だね」 スーツの背中に追い討ちかける
(つきしろ) 美しくまとめ上げてる黒髪のウソをあなたに手渡しにゆく
027:嘘(140〜164)
(折口弘) 恋愛にかなり不向きな人生のレシピをみれば「嘘」欠いており
(本田瑞穂)嘘つきはゆっくりお風呂につかりますあまり遠くへいけないもので
028:おたく(133〜158)
(澁谷 那美子)釣りおたく ゴルフおたくに 旅おたく だったらきっといる 夢おたく...
(水沢遊美)母となる宿命を持つ幼女らのなおたくましき玉の緒を見ゆ
035:株(108〜134)
(村上きわみ)切り株の、そこだけがとてもあかるくて待ってなさいと言われて待った
(瑞紀)一株のフェンネルが葉を広げをりやさしき風を待つ羽のごと
086:メイド(26〜50)
(ゆあるひ)心からのおかえりなさい聞けるならメイドカフェなるところ行きたし
(澁谷 那美子)貴方へのプレゼントには出来なくてハンドメイドのパンを囓りぬ...
087:朗読(26〜50)
(暮夜 宴)透明で折り目正しい朗読が占拠している春の教室
(ドール) 土曜日の朗読会はイーハトーヴの土の香りとぬくもりに満つ
088:銀(26〜50)
(みゆ)できるなら聞きたくなかった君の嘘 銀のピアスはもう似合わない
(愛観) もうここに落ちてはいない想い出は銀杏並木の乾いた葉の音
089:無理(26〜51)
(暮夜 宴)強引に通した無理のしわ寄せに潰されそうな春のゆうぐれ
(ゆあるひ)なにも無理する必要は無いんだと言い聞かせてる遠い夕暮れ
 (寺田ゆたか) ・無理したらあかんやんかと叱られて甘えていたい女(ひと)もありけり
(中村成志) 華やかなうつぼの無理もそのままに身をぷりぷりの唐揚げにする
090:匂(26〜50)
(暮夜 宴)誰にでもやさしくなれる気がしてた金木犀の匂うひだまり
(西宮えり) 八月の夜へアンテナひろげてはきみの生まれた匂いを拾う
(濱屋桔梗)小豆煮る匂いを照らす蛍光灯午後五時半の白い静謐
(寺田ゆたか) ・紫陽花ははつかに濡れて夕明かり淡き縹(はなだ)の匂ひ移ろふ
(小早川忠義) 少年は男とならむ吸ひ差しの煙草の匂ひゆるくまとひて