題詠百首選歌集・その34

 不安定な天気が続くが、西日本に比べれば東京の雨はさほどでもない。暑さに強いわけではないが、早く本格的な夏空になって欲しいものだ。例によって、選歌集その34。(各歌の頭の位置を揃えたいのだが、いくらやってもうまく揃わない。ブログの宿命なのか、それとも私が下手なのか・・・・)


002:指(263〜289)
  (あみー) ほんとうはひとりになんてなれなくてさよならと書く指がふるえる
  (なまねこ)約束は果たされぬままあの夏におきざりの熱 遠い指切り
  (くまのこ)指切りをしたあの日からTシャツがいのちでじわり重くなり、夏
010:桜(201〜229) 
   (沼尻つた子) 桜桃の軸をむすべる舌を持つ老嬢が座る角の煙草屋
020:信号(170〜194)
(鳴井有葉)水着だから信号は無視!自転車にくくりつけてる浮き輪を揺らし
037:花びら(111〜136)
(小籠良夜)たわぶれに薔薇の花びらひき千切りバスタブ紅く水葬とせむ
(田丸まひるうめきたい夜のバスタブうめつくす百万本の薔薇の花びら
044:飛(82〜109)
(中村うさこ)ばら園をそぞろめぐりて小半日わが飛蚊症忘れてをりぬ
(村上はじめ)一面の青をバックにひた長く飛行機雲が映える8月
046:凍(76〜102)
(智理北杜)凍裂を治す樹液の透明な心を持ちて新生児出ず...
(上田のカリメロ) 笑顔とは裏腹にある嫉妬心 凍てつくという言葉つぶやく
(きじとら猫)初めてのデートの記憶はガラガラに空いたスタンド冷凍みかん
(なまねこ)冷凍庫のソーダアイスをはんぶんこ幼いころの恋は水色
054:虫(60〜86)
(笹井宏之) コッペパンわけあいながら泣き虫と泣き虫がくもりぞらをみてる
(みあ) タタンタと鍵盤たたくゆびさきは羽化の出来ない銀の鈴
(ワンコ山田) 柔らかな羽もつ虫の水葬を送る紫陽花雨にかしいで
佐藤紀子) なかなかに虫の居所さだまらず 今日もあなたは少し不機嫌
092:滑(25〜49)
(水都 歩)六月の夜の七時の滑り台恋人ごっこの二人が滑る
093:落(25〜49)
(髭彦)オレンジの火玉となりて陽は落ちぬみちのくの旅終はる車窓に
(スガユウコ) 尾張よりの落人らしと遥かなる母の祖先に吾の弱さ見ゆ
  (寺田ゆたか)・浅間嶺に落つる夕陽と競ひつつ駆けて列車はトンネルに入る
(小早川忠義) 働ける証か今日のしがらみか垢を落として明日も働く
097:告白(25〜49)
(春畑 茜)水桶に浅蜊の口はひらきをり雨やまぬ夜の底の告白
(秋野道子)再会は表紙ではなく本編を告白しあう潮時である
(西宮えり)ガーベラの咲く道だけを示されて「ごめんなさい」で始まる告白
(暮夜 宴) お日さまに恋したモグラ告白は命がけです向日葵畑
(寺田ゆたか) ・そのかみの幼き恋の告白もいまは酒宴の肴となりぬ
100:題(25〜49)
(春畑 茜)百題の尽きたるのちを風は過ぐむらさきあはく桐の散る午後
(秋野道子) 前置きを長々と聴くはつなつの本題までに見る赤い夢
(濱屋桔梗)表題を自身につけよというならばきっと「無題」を選び消えよう