題詠百首選歌集・その35

 去年から、題詠マラソンというネット短歌の催しに参加している。今年は「題詠百首」となり内容も少し変わったが、あらすじは同じである。去年、この催しに触発されてブログを始め、参加作品から、「秀歌選」と「百人一首」を手掛けてみた。今年も同じことを試みているところだ。至って気ままで私的な試みだが、多少評価して下さる方もおられるようなので、一応真面目に続けようと思っている。(以上、この催しを御存じない方への注釈まで。)


        選歌集・その35

011:からっぽ(207〜231)
  (なまねこ) からっぽの上り列車に乗り込んでからっぽの部屋へ帰るのでしょう
  (お気楽堂)からっぽのワインボトルをテーブルに二本並べてまだ酔えぬ夜
   (Harry) 悩みなど何にもないと言ひながらチューハイ三缶からっぽにする
016:せせらぎ(182〜206)
(しょうがきえりこ)故郷にはなかったはずのせせらぎもなつかしくなる新宿の夜
(新明さだみ) 目の端に在る夭折の叔父の骨 せせらぎからは虹が生まれる
017:医(177〜201)
(しょうがきえりこ)ひとりでも生きていけると強がりたい 医者の白衣はいつだって白
018:スカート(182〜214)
(本田瑞穂)あのシャツを着てたあのときはいていたスカートにしてきょうここに来た
(和良珠子)枇杷ほどの硬さ、甘さかスカートに隠された12歳のくるぶし
031:寂(136〜162)
(なまねこ) 上空のブルーグレーの輸送機は静寂だけを引きつれてゆく
(幸くみこ) 海沿いの寂れたバス停 果てしない一本道を老犬がゆく
碓井和綴) 寂しさもオブラートには包めぬか胃薬の水ひとり取りゆく
032:上海(135〜161)
今泉洋子)黄昏の上海軒に夏さりて燕(つばくら)の巣の三(み)つ四(よ)つと増ゆ
(ぱぴこ)メールにて届く上海 液晶が四千年の瞬きをする
(水沢遊美)ジャズの香と二胡の艶に濡れてゆく「上海Red」を聴きし夕暮れ
036:組(116〜146) 
(そばえ)組み分けの教室の床 耳たぶの今朝のかたさを確かめてみる
(空色ぴりか) 手をあげたままロボットが立ちつくすお昼休みの組み立てライン
038:灯(112〜142)
(田丸まひる) 切れかけた蛍光灯の点滅が刺さる きみから何を奪おう
(村上はじめ) 灯がともる家々の窓眺めつつ 我が家へ急ぐ金ようの夜
(ケビン・スタイン) 灯台にもたれて子守唄うたう 今夜は夢で旅人になる
(ぱぴこ) 眩しさをいくつも抜けて帰り着くひとりのために灯された部屋
039:乙女(114〜144)
(村上きわみ)ていねいに夜をほころぶ乙女座のひかる麦の穂見上げています
(村本希理子) おほかたは憎みてゐたる少女趣味乙女椿が首から落ちる
041:こだま(105〜133)
(きじとら猫) お互いを確かめあったささやきが今も微かにこだましている
(村本希理子) 囁いた秘密がきつとこだましてゐる冷蔵庫 誰も開けるな
(ぱぴこ)こだまする声の切れ端さよならの合図は曖昧すぎる約束