題詠百首選歌集・その36

 未選歌の在庫が25近く貯まっていた題もかなりあったし、3連休なので、かなり多くの題が選べるのではないかと思っていた。事実、40、50台あたりはかなり多くの題が対象にできたのだが、後の方になってみるとそうでもない。まあ、それは明日以降の楽しみにしよう。

           題詠百首選歌集

040:道(111〜142)
   (佐原みつる) この道をまっすぐ行くと夏空に繋がってそう 右折しなさい
   (ことら)道幅(みちはば)に膨れし熱を放ちゆく 海より昇るサウザンクロス
   (田丸まひる) 百万の銀葉ヒマワリ揺れる道 いちばん寂しかったのは誰
047:辞書(78〜109)
(中村うさこ) 繕ひし表紙の布もいろ褪せぬ卒寿の女(ひと)の愛用の辞書
(里坂季夜)きまぐれにケータイ辞書の顔文字を選ぶ なにかがさびしく笑う
048:アイドル(80〜113)
(桑原憂太郎) アイドルと呼ばれし独身女教師が用務員室で一服をせり
(上田のカリメロ) 若き日に憧れていたアイドルの 年の取りかた真似してみたり
(なまねこ)アイドルのポスターしんみり褪せてゆく商店街のレコード屋にて
島田久輔) 郷愁につきうごかされて同窓会 アイドル・マドンナなべて熟せり
049:戦争(77〜108)
(澁谷 那美子)君と見る戦争映画 ベトナムの荒野に一人少女が立てり
(はるな 東)ドクちゃんが結婚すると報じられベトナム戦争のよぎる六月
050:萌(77〜101)
(中村うさこ)朝露の畑に萌え出てさみどりのアスパラガスは空をゆび差す
飛鳥川いるか) 萌えいづるわらび・ぜんまい、早春のダンスはさかさの音符のかたち
(凛) 青空が梅雨の終わりを告げるから多分もうすぐ緑が萌える
(はるな 東)薬王とふ菩薩がおわすことすらも知らずに萌ゆる草を摘みゐし
057:鏡(58〜89)
(寺田ゆたか) ・この家に入りて久しき年月に吾妹と共に老いし鏡台
(鈴雨) 祖母おくり 鏡台に残るべっこうの櫛の香嗅ぎし 十六の春
058:抵抗(58〜87)
(David Lam)抵抗と諦念 ともに此の身へと染み込ませたる父を恨まず
(紫峯)だんだんに抵抗力の衰えし兆しとみえるその咳哀し..
(素人屋)抵抗するもの溢れ出て身を破りカラスアゲハの羽化は始まる
059:くちびる(59〜90) 
(みあ) 特養へ帰る母の背ちいさくてくちびるだけで「ごめんね」を言う
(桑原憂太郎)Viの発音なまめかし独身の女教師の紅きくちびる
060:韓(56〜85)
(寺田ゆたか) ・韓国(からくに)のひとうるはしく微笑めば紅きチョゴリはなほ紅く見ゆ
(小早川忠義) 国と国の垣根を思ふ「韓」とふ字表すものは此処にはあらず
(おとくにすぎな) すきまから光こぼれてすきとおるみどり韓国海苔の木もれ陽
(みあ)ラジオからひびく韓国放送がひとりぼっちの海へいざなう
(星桔梗) 日韓と韓日の差は大きいと溜め息混じりに彼が呟く
061:注射(54〜80)
(みあ) 注射器の液体に住むシャム猫は銀ぴかの目で獲物をねらう
(ワンコ山田)注射器に空と稜線映しこみ夏の予感のワクチンが待つ
飛鳥川いるか) 注射器が黒き血を吸ふ午前中桃の実あまく肥えふとるらむ
062:竹(53〜77)
(やな)清らかに生臭き風閉じこめて野宮の竹林からからと鳴る
(David Lam) 竹の子の苦き味わう春の夜の「暮らし」の文字のほの暖かさ
(鈴雨) 線路ぎわ銀の葉裏をひらめかせ竹似草はまた列車を送る
094:流行(25〜50)
(春畑 茜) 流行るとは儚きものをデパートに小妖精(エルフ)の服のごときがならぶ