「日本語雑記帳」後日譚

 以前にもPRを兼ねて書いたように、5月の末に新風舎文庫から、「日本語雑記帳――――ことば随筆」という著書を刊行した。私のとって6冊目の著書である。日本語を巡るいろんな雑感や知識をつまみ食いして書いたもので、どこまでお役に立つものかは別として、肩の凝らない、割りに面白い本だと自画自賛している。
 
 書いた以上は、たくさん売れてほしいのは当然だが、どうもあまり売れそうな気もしない。中身の問題はさておき、売れないだろうと考える理由はいくつかある。
 私自身が本を買う場合を考えてみると、まず新聞の書評や広告に出たものが候補になる。もう一つは、書店の店頭での衝動買いだが、この場合は、店先にうず高く積んであるものにまず目が行く。いずれの場合も、著者の知名度等がものを言うことも、これまた当然だ。その点、私の今度の本の場合、大々的な広告があるわけでもなく、目下のところ、私が売り込んだ特定の地方新聞を除き書評も出ていない。私自身もこのブログを含めかなりPRはしているのだが、個人でのPRには限界があり、仮に私の知人が全員買ってくれたとしても、せいぜい千部か2千部のオーダーだろう。
 発行部数にも限度があるから、書店にうず高く積んであるどころか、置いていない書店の方が遥かに多いくらいだ。また、私自身も、この面では全く無名の人である。そういった意味で、書店での衝動買いもほとんど期待できないし、この本がベストセラーになる可能性は、限りなくゼロに近い。言い換えれば、大出版社が、ベストセラーを狙って大々的に売り出した本以外がベストセラーになるということは、まずあり得ないことかとも思う。
 
 刊行して暫く経ってからのことだが、作家の阿刀田高さんが岩波新書から「ことば遊び」の本を出版されていることを、ある知人から教えられた。慌てて買ってみたら、私の本より1週間ばかり早い発行である。私の本は、ことば遊びに限定した本ではないが、ことば遊びのことも、1章を割いて触れている。したがって、ことば遊び自体とそれに関連することがらにつき、阿刀田さんの本と共通する部分も多少あることは否定できない。もっとも、切り口はかなり違うし、あえて言えば、私の本の方が見劣りするということは絶対にないという自惚れは持っているのだが、それにしても危ないところだった。もしあと数ヶ月私の本の発行が遅れ、阿刀田さんの本が出た後で最終稿を書くようなことになっていたら、阿刀田さんの本を意識せざるを得ないし、最悪の場合には相当の手直しが必要だったかも知れない。
 そういった意味で、1週間の後塵は拝したものの、そのことを知らないままに刊行できたということで、「危ないところだった」と思いつつ、まずはほっとしたところである。

 
 生まれた子供が丈夫に成長するかどうか、親が気にすることは当然だが、本を出した後の心境もそれに似通っている。ベストセラーになることを期待しているわけではないが、自分の子供が少しでも大きく育つように、いまとなっては念ずるのみである。このブログでのPRが、売上げに少しでも寄与してくれればありがたいのだが、果たしてそううまく問屋が卸してくれるのかどうか。PRついでに図々しいことを言えば、私が知る限りでは読者の方には概ね好評であり、著者たる私の手前味噌ではあるがある程度の中身もあり、面白いことは十分請け合えると思っている。お値段も650円+消費税と手頃であり、夏休みの行楽のお伴には絶好の品だとも思っている。