題詠百首選歌集・その39

 暑中お見舞い申し上げます。東京も梅雨が上がり、やっと夏らしくなって来ました。暑さに強いというわけではないのですが、やはり夏の日差しを感じると、何となく嬉しい気持になります。今日は広島原爆の日、昨今の世界の動きや我が国の世相を考えるにつけ、人の命の大切さということを、あらためて痛感せざるを得ません。
 それはそれとして、選歌集をお届けします。

  
   選歌集・その39


005:並(250〜274)
  (ゆづ) 今もまだ並んで歩いていることの言い訳なんかを考えている
  (透明)神様が桜並木を指で押す開花のドミノはゆっくり北へ
014:刻(195〜219)
(あめあがり) 刻みたる葱の白から青きまでちぎり絵となす音絶えし夜
(ひらそる)深刻にジョーカー眺める幼子は「ばぁちゃんばぁか」と爺に寄り添う
(本田あや) 真夜中に生姜を刻む 雨だからたぶん明日は手をつながない
019:雨(186〜210)
(岩井聡)朽ち樋のような子どもの死のかたち外廊下だけ雨が止まない
(新明さだみ) 雨だれのような足音聞きながら梅乃宿など飲み干している
025:とんぼ(167〜191)
(なまねこ)うつむいてさよならを言う足下にしおからとんぼの翅はこぶ蟻
内田誠)悲しみに触れたばかりの指先に秋を纏ったとんぼがとまる
(お気楽堂)友釣りの等間隔に並ぶ川静けさの中糸とんぼ飛ぶ
(日下智世) 赤とんぼ老いた祖母だけ住む家の荒れた畑に高く舞いおり。
(酒童子) 盆が過ぎ見送るバスの砂けむり なごりの陽射し稲穂のとんぼ
(わたつみいさな。) 指差したあおぞら とんぼ しろいくも 穏やかにただ夏が往きます
030:政治(143〜181)
(市川周)政治面とばしてめくる雨の朝ぶどうの屍骸ポトポト落とし
ひぐらしひなつ)政治家の訃報を告げる号外が肉屋で肉を包み、はつなつ 
035:株(135〜160)
(そばえ)金融という名の箱がありまして回る回るよ株式市場
(黄菜子) 在りし日の父は聞きにき毎日のラジオが告げる株式市況
内田誠) 株式化された僕等の終値はしずかに夜の街に流れる
066:ふたり(52〜79)
  (澁谷 那美子) タイミングはかったように来るメール 寂しい時もおんなじふたり...
  (みあ) ブランコのふたり漕ぎして埋めようとしてるこの距離ちかくて遠い
  (紫峯) 七夕は遠く過ぎ去り紫陽花も終わりになりしふたりの暮らし...
067:事務(51〜78) 
  (斉藤そよ) 事務服は人をつつんでバランスを六角形に近づけてゆく
  (美里和香慧)事務服のボタンを外せば5時からの淑女へ変るペティキュアはラメ
  (碓井和綴)事務処理を済ませるように封筒で合鍵届き広くなる部屋
  (素人屋)事務的な問診終わりあと一つ尋ねたかった言葉のみ込む
068:報(52〜78)
(素人屋)背負(しょ)っている荷物が重い・・・呟きを聴いていたのか零時の時報
(紫峯) 大いなる夏の情報満載し休耕田にひまわり咲きぬ...
069:カフェ(51〜75)
  (斉藤そよ)雪の日のカフェのココアにふやかした蹉跌こちらは初夏の候です
  (小籠良夜)長雨のカフェにコートの男来ておもむろに告ぐ「地獄焙煎…」
  (碓井和綴) ご贔屓のお菓子を買いに行きませうひなたぼっこの縁側カフェ
071:老人(51〜75)
  (斉藤そよ)みずうみが受け容れている老人と犬と恋人たちの夕焼け
(星桔梗) ほの字などこの老人には不似合いと笑う瞳に写る夕焼け