題詠百首選歌集・その40、ついでに8月15日の「戦火」

 タイトルに「選歌」と入れようとしたら、「戦火」が出て来た。これまでになかったことだ。今日は8月15日、因縁めいたものを感じないでもない。小泉総理は、今朝靖国に参拝したという。一体何を考えているのか、いまさら真面目に批判する気にもなれない。あるいはそれが彼の狙いなのか。それにも増して怖いのは、それに喝采を送る若者が少なくないということだ。書店に山積みされている粗雑かつ安直な国粋主義的な書籍にも恐怖を感じる。この国は一体どこに流れて行くのか。「勝手にしろ」と叫びたくもなる。(「小泉総理」と書くのも実は不愉快で、「小泉」と呼び捨てにしたい気持なのだが、まあ最低限の礼儀だけは守っておこう。)

 腹立ちまぎれに余計なことを書いてしまったが、選歌集その40をお届けします。


003:手紙(259〜283)
(帯一 鐘信)迷い道小さく切って投げられた手紙のような空の星屑
(杉山理紀) むらさきの夕焼けだけをみてるはず手紙を売って暮らした部屋で
(瀧村小奈生) あなたへの手紙にそっと閉じ込めるあした生まれる月の光を..
(九慈八幡)迷路なきひかりの手紙を受け取ればただ暖かい小路へ歩む
(浅井あばり)憐憫が消えないうちに朝摘みのとうがらしひとつ手紙に添える
009:椅子(235〜259)
(白辺いづみ) 黒板に書きし積分過去の傷眺むやさしき放課後の椅子
(橋都まこと)揺り椅子とパイプのかほり亡き祖父の思ひ出 静かな書斎の名残り
(フワコ) 夕暮れのポーチは極上の椅子となり猫と私に花風そよぐ
(香山凛志) 指きりを繰り返しつつ過ぎた夏  揺り椅子の生む風を見てゐた
015:秘密(204〜228)
(眞木) 約束でもあるかのように出かけゆく猫の秘密をあばいてみたい
(白辺いづみ)三毛猫の目は前世の十五夜と愛の秘密を宿して静か
(小太郎)着信の番号眺めオフにする君の秘密を握る携帯
028:おたく(159〜183)
(砺波湊)社の住所「おおたくかまた」と読み上げるときだけ幼い声になるひと
(わたつみいさな。) おたくという意味が今さらわからずにキラキラした瞳(め)の少年がゆく
054:虫(87〜113)
  (日下智世)虫干しに納戸を開ける土用の日夏の陽と風眩しくありて。
(中村うさこ)スタンドの灯かり引きよせ虫めがねを近づけ離し広辞苑みる
(村上はじめ)虫の音が聞こえるように窓を開け夜の涼しさメールで送る
(里坂季夜) 音もなくてんとう虫の背は割れてさよならまるい妄想宇宙
(方舟) 里山の近くをついの栖としはや虫すだく夜を楽しむ
055:頬(83〜112)
佐藤紀子) 一杯のビールで頬を染めてゐた アイツのそんな頃を知つてる
飛鳥川いるか)携帯電話(ケータイ)を切りたるのちの妹のその片頬に映る彦星
(お気楽堂)梅酒から取り出した梅頬張って君の問いには答えぬつもり
(方舟)イラクより帰還の兵は真っ先に我が子抱き上げ頬ずりをする
056:とおせんぼ(81〜107)
(松本響) まだ星に会ってはだめと夕焼けにとおせんぼされ足踏みしてる
(お気楽堂) 年齢に資格子の有無容姿まで嗚呼とおせんぼ女の人生
(本田瑞穂)とおせんぼなんて甘えていた頃のもうほんとうに通らない道
070:章(59〜85)
(星桔梗) 最終章だけは私の許にある押さぬハンコは未練だろうか
(鈴雨) 苦しんで悩んで君が辞めた社の社章のロゴはいまも「心」か
072:箱(51〜75) 
(斉藤そよ) 箱庭に吹き渡る風いっせいにみどりきみどりひるがえる午後
(はるな 東)桃色の箱を開ければお土産のキーボルダーが語る思い出
073:トランプ(52〜77)
(桑原憂太郎)トランプのババ抜きのやうクラス替へで問題生徒の名票がまはる
(なまねこ)トランプを最後に入れたトランクとトラップだらけのトリップへ行く