題詠百首選歌集・その41
ひさびさに夏空が広がった。歩いて15分ばかりの区営プールで汗を流して来たところだ。とはいっても、ほとんど泳がずに水中歩行専門で、あまり恰好の良い図柄でもない。プールでの主役は、私同様の熟年組と、小学生。「目の保養」にはほとんどならないが、まあ邪念抜きに、健康のためということで満足しよう。
題詠百首選歌集・その41
021:美(178〜202)
(萌香) 永遠を虞美人草と名づけられ風を彩る初夏の丘
(小太郎)君の身が魚にかえっていく時の美(は)しき鱗を見てた3月
022:レントゲン(178〜203)
(萌香)精密なレントゲンより正確に知り尽くしてる不器用な指
(わたつみいさな。) なにもかも見透かされてはいないはず少しうつむくレントゲン室
023:結(174〜200)
(内田誠) どこからが弱さになるかの結論が先のばされてまた秋になる
(和良珠子)身のうちの決してほどけぬ結び目がほんのわずかに緩む仕舞い湯
(Harry) 結論が中途半端で終はりたる会議のあとの無糖コーヒー
024:牛乳(173〜201)
(幸くみこ) 牛乳のフタを上手に開けられない 幼稚園には行けない理由
(本田あや) 午後三時の光は白い ぼんやりと噛みしめているぬるい牛乳
026:垂(170〜194)
(しょうがきえりこ)虹色のリボンを垂らし手をふった すべてのことが正しかった日
(碓井和綴)藤の花枝垂れて霧の6月に君見失う長すぎた春
027:嘘(165〜189)
(内田誠) まだ青い夏の終わりに捨てられた嘘をくわえた海鳥が往く
(日下智世)バックから出てきた映画の半券を見て思い出すあの頃の嘘。
(帯一 鐘信)嘘らしい嘘にだまされ秋空で傘を隠してぬれたふりする
029:草(158〜182)
(ひぐらしひなつ)今生の最後の月を見るように煙草屋までを並んで歩く
(酒童子)夏草はそよともせずにうな垂れて風鈴売りの音路地をゆく
(黒田康之) 枕辺の本の栞となり果てし「草々」のみが手書きの葉書
037:花びら(137〜161)
(空色ぴりか)うす雲を透かして沈む太陽は花びらもちの淡さにも似て
(ケビン・スタイン) 花びらをつぶして君の鼻先にタンポポ色の太陽を描く
(ぱぴこ)花びらがあなたの肩にとまったら零れかねない告白が在る
(我妻俊樹) カーテンが花びらまみれに更けてゆく今夜とおくでひかる船火事
(黄菜子)花びらを天日に焼かせ向日葵はあの八月の墓標のごとし
074:水晶(57〜81)
(小早川忠義) 疲れ果て眠りに沈む傍らの水晶時計音なく回る
(美里和香慧) ゆらゆらと水晶もえてささやけば悪魔のように愛したい夜
(はるな 東)少しだけ大人を感じた水晶の指環を父にもらった十六
(紫峯)水晶のペンダントならもうしない確信なんて夏の陽炎...
075:打(56〜80)
(五十嵐きよみ) 会いに行く口実でいい打ち消せぬ不安をあなたに伝えるために
(みなとけいじ) ひとを打つ手でもありしか卵置きの卵ぬるりと蒼ざめる午後
(なまねこ)ざんこくな仕打ちのようにあさやけはシーツを紅く染めかえてゆく