題詠百首選歌集・その43

 先日上高地で大分歩き、1キロ減ったと喜んでいたのだが、翌日になったら元の木阿弥になってしまった。「悪銭身に付かず」の逆で、脂肪はいったん離れても、また身に付いてしまうようだ。
 
余談はさておき、選歌集その43。


001:風(282〜306)
(小春川英夫) 夏の川の大きな橋を越えていく白夜のような夕方の風
(yuri.)しなやかにたおれる日々の夕方も、波の根元の風が千切れた。
(野田 薫)粉々になってしまった風鈴が降って無人の病室は夜
010:桜(230〜256)
(Harry) 春を待つ楽しみこれで失せにけり桜のつぼみ開きたる朝
(長岡秋生)桜餅の葉を除く君の指先より目をそらしつつ話をつづける
(遠藤しなもん)南から桜前線近づいて焦るわたしを追い抜いていく
020:信号(195〜219)
(白辺いづみ) 信号の柱の下の花束に愛しただけの霧雨がふる
(夢麿) 宇宙から時折届く信号を受け取るために海へと急ぐ
057:鏡(90〜114)
(村上きわみ)拝復のむすびに置けばゆっくりと水のにおいになる鏡文字
(ぱぴこ) 憂鬱を誤魔化すだけの薄化粧もう長いこと拭かない鏡
(萱野芙蓉) きみ在らずわれも在らぬ世、祝詞(のりと)きく神獣鏡にさくら降りしや
(佐田やよい)ほんとうの心をのぞくためだけに凹面鏡に全裸をうつす
島田久輔)悩み事こまかくきざんで放り込みくるくる回して見る万華鏡
058:抵抗(88〜112)
  (はるな 東)達三の「四十八才の抵抗」を哀れと思った二十歳の思考
   (ぱぴこ) せめてもの抵抗として明日から君を苗字で呼ぶことにする
(里坂季夜) 無関心無抵抗かつ無愛想ときどき無邪気カクタスに花
059:くちびる(91〜116)
佐藤紀子) くちびるの寒き思ひに噤みたり少し脱線したかもしれぬ
(はるな 東) らんぼうに檸檬をもいで噛みついたあなたのあとをなぞるくちびる
(方舟)稚児衣装着せて童女のくちびるに祭りの紅を小さくさしたり
(あおゆき)今日もまた無意味な会議動かないくちびるばかり集うこの部屋
(きじとら猫) あまりにも子供じみてる言い訳を紫煙燻らせ許すくちびる
(幸くみこ) くちびるが葉っぱに化ける夢を見た お絵かき歌を憶えた夜に
060:韓(86〜110)
佐藤紀子)韓国のドラマの底に時にある「恨」が心の抵抗となる
(智理北杜) 北韓を遠くに望む展望台 臨津江はたゆたき流れ..
(佐田やよい) またひとつ夏を見送る一人きり韓紅(からくれない)のペディキュアを塗り
(里坂季夜)中吊りの韓流スターが今日会った唯一の笑顔そんな日もある
062:竹(78〜102)
(ぱぴこ) 竹薮をどんどん抜けてたどり着く川原まぶしく秘密めく夏
080:響(53〜77)
(美里和香慧) 響いてる心で聞いたバラードのようなあかねにそまるゆうぐれ
(富田林薫) 街角のピアノのなかの響板に忘れ去られた四分音符ひとつ
082:整(50〜74)
(花夢) そうなっていくしかなくて冬のよるわたしの棚のなかは整う
(なまねこ)整えた指先の爪みじかくてゆうべのことなどなかったように