「東京五輪」への疑問(朝日新聞「声」)

 今日9月5日付け朝日新聞東京版の「声」に掲載されたものを転載する。編集部で多少の手直しがあり、タイトルも「『東京五輪』は国土政策欠く」となっているが、内容は原文とほぼ同じである。以下は、投稿した原文である。
 3年前に、任期を残して退任した理由の一つが「経済産業省の傘を離れて、自由にものを言いたい」ということだったのだが、幸い、その後著書も3冊出したし、朝日の「声」はこれで6度目である。そういった意味では、まずまずと言うべきか。


  
 オリンピック招致に疑問 
         無職 西中眞二郎(東京都練馬区・68歳)

 
 オリンピック候補地が東京に決まったようだが、これには疑問がある。我が国へのオリンピック招致の是非はともかく、私の疑問は、我が国の総合的な国土戦略という観点からの疑問だ。
 昨年の国勢調査によれば、47都道府県のうち、人口が減少した道県は32に及ぶ。他方、人口の伸びの第1位は東京都、第2位は神奈川県と、東京一極集中の傾向を顕著に見せている。
 我が国総人口は、既に減少に転じている。このままで放置すれば、東京への一極集中と地方の一層の疲弊が、遠くない将来の深刻な問題として懸念されるが、「東京オリンピック」はその傾向に一層の拍車を掛けるのではないか。
 今回の候補地の選定に当たっては、競技のための利便性とか、設備建設の確実性とか、スポーツの視点からのみの評価のようであり、より基本的な国土のあるべき姿といった視点は、全く入っていないようだ。人口減少社会を迎えた国土のあり方は、最重要課題の一つのはずであり、そのような視点を欠いた政策論抜きの招致には、基本的な疑問を抱かざるを得ない。今後どこかの段階で、そのような視点から東京へのオリンピック招致の是非を真剣に議論されることを期待したい。