題詠百首選歌集・その46

 この2日ばかり、ブログにも書いたように、私にとってちょっとしたニュースが続いた。これで暫くは種切れだろうし、余り欲張るわけにも行くまい。ニュースのない日々の続くのが正常な状態なのだろうと思う。
 
 余計な感想はさておき、選歌集その46


008:親(252〜276)
(浅井あばり)親戚のおやじが冬の日輪をたぶらかしては飲む酒を乞う
012:噛(232〜257)
(納戸)好きですも愛しているも噛み殺し右手を小さく振る0番線
(佐藤羽美)さよならと発音をせりマシュマロを噛み切るときの顎の傾度で
(浅井あばり)校庭を残して暮れた肩ごしに噛み痕のある多肉植物
016:せせらぎ(207〜233)
(わたつみいさな。) せせらぎを見つけた指がなお深く愛はどこだとさまよっている
(浅井あばり)せせらぎを捨て去る部屋の外側でマグカップからのぼる放逸
033:鍵(167〜191)
今泉洋子) 鍵なくし狼狽ふわれをコンビニのカメラ八台つぶさに映す
ひぐらしひなつ)真鍮の鍵を回せば野の果てに鳴る廃校のグランドピアノ
(堀 はんな)封筒に鍵とさよなら詰め込んで旅立ちの朝ポストに寄りぬ...
034:シャンプー(162〜186)
(岩井聡) 恋うというむず痒いこと火照ることシャンプーハットで受ける星くず
ひぐらしひなつ)五月。ともに暮らしはじめてシャンプーを選ぶあなたに雲雀が宿る
(彼方)シャンプーをしている君のくちびるがドナルドみたいで また好きになる
(黒田康之)シャンプーをせし吾が首にメントール染み入る時に海に落日
(萌香)シャンプーの香りに伸びた手のひらの記憶に惑う髪の先まで
(遠藤しなもん)シャンプーの苦味わたしはいつまでもやさしくなんてなれそうにない
035:株(161〜185)
(夢麿) 携帯の電源を切る ひと株の青梗菜を手に持ったまま
今泉洋子) ラヂオより聞ゆる株価夕食のおかずと共に身に流し込む
068:報(79〜104)
(ぱぴこ)報告は欲しくなかった元気だとそれだけ知っていればよかった
(野良ゆうき)真実は逃げる隠れる舌を出す 報道陣に囲まれながら
081:硝子(53〜77)
(はるな 東)てのひらにずっしり重き色硝子被せた切子に浮かぶ夕月
(原田 町) 窓硝子に稲妻はしりレバノの流血いまだやまずと聞けり
佐藤紀子) 硝子戸を湯気に曇らせ饅頭屋ほつかり白きぬくもりを売る
(鈴雨)生れし家の記憶は硝子戸の向こう柿の古木の枝のゆらめき
083:拝(53〜77)
(なまねこ)拝啓と書いては消してあきらめて飛行機折って飛ばす 遠くへ
(紫峯)鶴首の備前の花瓶両の掌をあわせて受くる 拝むかたちに...
飛鳥川いるか)ミサののち礼拝堂にのこりたるひかりのごとき熊蝉のこゑ
084:世紀(53〜78)
(原田 町)老人の世帯ばかり増えゆきて二十世紀梨の薄紙ほどく
(鈴雨)おさなきに描きし未来都市はなく新世紀のかぜ風車をまわす