題詠百首選歌集・その47

 今日は重陽節句太陽暦では、なんとも実感のない節句だ――などと書いているうちに、10日になってしまった。


          選歌集・その47


013:クリーム(222〜246)
  (佐藤羽美)順番にクリームパンの胴体を引き裂いている朝の食卓
  (たかし)反抗の時代と知った薄い夏アイスクリームが溶けて流れる
018:スカート(215〜242)
  (如月綾)あの頃に縋ったママのスカートの代わりにあなたのシャツ掴む今
(内田かおり) おはようの続きの言葉を待つつもり今日新しいスカートの子は
045:コピー(136〜160) 
(佐田やよい) 哀しみが散らないようにコピーした花で部屋中うめつくす夜
内田誠) いくつもの言葉を借りてさみしさが静かにコピーされてゆく夏
ひぐらしひなつ)幾重にも許せぬ記憶吐き出して停まることなき夜のコピー機
066:ふたり(80〜105)
(ワンコ山田)9時過ぎは未知の領域ペディキュアのつま先ばかり見ていたふたり
佐藤紀子)「ふたり」より「ひとりとひとり」のごとくをり われら結婚四十五年目
(ぱぴこ)ふたりからひとりとひとりになる朝はキスではずみをつけて離れる
(里坂季夜)写メールで夕焼け空を送り合いふたりそれぞれ宵闇を待つ
071:老人(76〜101)
(ワンコ山田) ばあちゃんは歩いてお嫁に来たそうな老人泣かせの坂の町です
(ぱぴこ) 慎ましく老人手帳を提示する仕草この世に生きた年月
(彼方)街で見た私の父が老人の顔をしていて回れ右した
085:富(51〜76)
(智理北杜)一行を通した富樫の心意気 安宅関は今日も青空...
(紫峯)「了解」と短いメール受け取りて富士の高嶺の白雲仰ぐ...
(彼方)富士山のむこうとこっちでパジャマ着ておんなじ月の話をしてる
086:メイド(51〜76)
(五十嵐きよみ)目をそむけたくなる過酷な運命にメイドのように仕えるばかり
(鈴雨)ナースとう仕事しつつも母は吾にハンドメイドを着せて育てり
087:朗読(51〜76)
(五十嵐きよみ)たましいが消し飛びそうな恐ろしさ聖書を朗読しても詮無い
(智理北杜)ヒマワリが陽の詩を詠みてアサガオがそを朗読す 聞くはそよ風...
佐藤紀子) 朗読の上手な友が指名され「山椒魚」をしみじみ読みき
飛鳥川いるか)惜別に音吐朗朗読み上ぐる「すいきんちかもくどってんかいめい」
(みなとけいじ)朗読が終わった後のステージで虚ろな時を耐えている椅子
089:無理(52〜76)
(はるな 東)簡単に無理というなと叱られて捨てずに生きた嬉しくて恋
(原田 町) 最初から無理とわかっていたならばツクツク欲しいと鳴かずにすんだ
飛鳥川いるか)カッコワルイことの無数にありしころ無理して脱いだ毛糸のパンツ
090:匂(51〜76)
(ふしょー)あなたから海の匂いがする夜は枕を抱いて一人で寝ます
(帯一 鐘信)夏色のとうもろこしの風吹けば麦わら匂い焼けてゆく肌
(栗凛)浜風の匂いに息が詰まるほど 夏に貴方を思い出してる
佐藤紀子)朝風に秋の匂ひの漂ひて白きコスモス露を零せり