題詠百首選歌集・その48

 ここ数日で、すっかり涼しくなった。「お出掛けの際は、長袖を着て下さい」と天気予報で言っていたとのこと。このまま秋に入ってしまうのも、何だか寂しいことだ。題詠百首もあと1月半、去年の例によれば、10月末は投歌が殺到するようで、いまはのんびりしている選歌も、来月末には大忙しになるのだろう。
 
             選歌集その48


007:揺(253〜277)
(橋都まこと) 亡き人が乗っているのか公園のぶらんこ揺れる かはたれどきに
(ハル) したたかに気をひきたくてケイタイのメールの絵文字のハートを揺らす
(小春川英夫) 緑色の電車のドアによりかかり揺れながら行く八月の恋
017:医(211〜235)
(究峰) 誇らかに医師となりしを遠きより知らせる君の文字は変わらず...
(あいっち) 甘いもの好きですかねと診察のさなか歯科医に問われておりぬ
030:政治(182〜206) 
(にしまき)円満は恐怖政治にあると父含み笑いの母を背後に
(林本ひろみ) 政治家のゆがんだ笑顔が次々と映しだされるまた同じ朝
044:飛 (137〜161)
今泉洋子)飛びあがり落下せし瞬間(とき)石と化す背筋のびたる野村万斎
(ことら)責められてゐる窓の外(と)の明るさよ 空を斜めに飛び去る燕
(黄菜子)飛沫あげ水上バイク過ぎゆけばきらめきを増す9月の海は
(yurury**) 飛鳥川越えて常なし朝焼けに危篤の報と風鈴の音
046:凍(131〜156)
(まゆねこ)太陽をいっぱいトマトに凝らせた冷凍食に庫内明るし
(ことら) 青白く凍る欠片を飲み込んで泣けない君を後ろから抱く
049:戦争(134〜158)
今泉洋子) 戦争を思ひ出すため夏が来て空を響動す黒き蝉声(せんせい)
(黄菜子) 戦争を黙し語らぬ吾が父も戦記を編みし義父(ちち)も逝きけり
(ことら) 屠(ほふ)らるる子牛の如く澄み切つた瞳(め)で戦争へ行きますと云ふ
050:萌(127〜151)
内田誠)真ん中に根を張り終えた寂しさに萌える小さな水色の花
今泉洋子)杳(とほ)き夜に萌葱の色の柄杓より流れ出したる北の七星
(ことら) 萌え出づる光を迎へ真白なる背筋を伸ばす春の灯台
054:虫(114〜138)
(幸くみこ)姉ちゃんの昆虫図鑑こっそりと しゃがんだままで見る夏休み
(萱野芙蓉) 翅をもつ虫は微笑むことなきや歌うたはずにひと日過ごしぬ
今泉洋子) 虫の音のしきりに響くこんな夜は人恋しくて電子メール打つ
内田誠) 夕方になると泣き虫顔になる優しい君と笑う日だまり
072:箱(76〜101)
(紫峯)魂は月に棄つるやアラビアの木箱に隠せ尋ね行くまで...
飛鳥川いるか)たましひは何グラムあるダンボール箱50個の引越しなれど
(お気楽堂)今君に打ち明けられたこと全て箱詰めにする宛先は過去
(振戸りく)箱入りと呼ばれた頃が懐かしく思い出されるミルクキャラメル
今泉洋子)飛箱を越えたるやうに新婚の旅終へし友輝きて見ゆ
(野良ゆうき) ひと箱にしまっておいた悲しみを燃えないゴミの日に出してみる
088:銀(51〜75)
(なまねこ)公園の水銀灯に照らされた白き砂場をらくだが渡る
(鈴雨)茄子紺のそらの裳裾に嵯峨菊の金糸銀糸のぬいとりの見ゆ