題詠百首選歌集・その52

 明日から10月。去年の例によれば、月末には投稿が殺到するのだろう。そうなると、私もラストスパートを掛けざるを得ない。「早々と完走したのに、なぜ私まで焦らなければならないのか」と去年ぼやいた記憶もあるが、「身から出た錆び」と割り切るしかないのだろう。とは言いつつ、結構楽しみにしているのも事実である。


<ときどき気まぐれに書いている注記>
 題詠百首というネット短歌の催しがあり、私も「その他大勢」の一員として参加しているのだが、去年に引き続き最終的には「百人一首」を作ろうと思い、その前段階という意味もあって、逐次、気まぐれかつ勝手な選歌を進めている。そんな選歌だから、おそらくお気に召さない方もおられるとは思うが、そこは私の勝手な道楽ということでお許し頂きたい。なお、題の次に書いてある数字は、主宰者のサイトに記載されているトラックバックの件数を借用したものである。誤投稿や重複投稿もあるので、正確な短歌数とは限らない。(作品の頭の位置が揃わないのが気になっているのだが、どうやってもうまく行かないので、お目こぼし頂きたい。)

             
           選歌集・その52

021:美(203〜227)
   (瀧口康嗣)美しくない黄緑の折り鶴は少しつぶすと蛙になった
    (フワコ) 朝焼けの美しさに少しだけ怯えもいちど毛布にくるまっている
   (大辻隆弘) ああこんな美しい日に豚まんの底の薄紙はがしあぐねて
028:おたく(184〜208)
  (保井香)夢中というおたくの武器を手に入れてライフワークに巡り会いたい
(萌香) 物知りがおたくになったいつとなく変わり者だと言われ続けて
(堀 はんな) 親友と思っていたよ「おたくさん」なんて呼ばれるその時までは...
(大辻隆弘) 辛き青菜をおたおたくひて夕暮れのしんなり冷ゆる厨に坐せり
053:ブログ(131〜155)
  (わたつみいさな。) 何よりも開かれていて何よりも閉ざされていてブログに逃げる
(黄菜子) ブログとて赤裸に書けるはずもなく心憂き日はPCを閉づ
(みずすまし)うたかたの消えては結ぶ泡のごとブログも流れ はかなく果つる
064:百合(106〜133)
   (新野みどり)誕生日百合の花束受け取って30代の日々が始まる
   (田丸まひる)百合の花粉たっぷりつけたくちびるを咎め合いたいおんな友達
065:鳴(103〜129)
(萱野芙蓉) 鳴りわたる夏の子音よお別れを見つめることにも慣れてしまつた
(あおゆき) この胸の鳴らない弦をむしりとるお前を愛さなくてよかった
(空色ぴりか)初めからわかっていたと微笑んで海鳴りに背を押されて帰る
(水須ゆき子) 注連縄の水あおあおと鳴神の上人は猛き頸を持ちおり
(方舟) 離村とふ運命を秘めて葦原の谷中村跡よしきりの鳴く
ひぐらしひなつ)自らは鳴けぬ鳩笛両の手でつつましやかな丸みを包む
067:事務(103〜129) 
(瀧口康嗣)代議士の事務所の前のガラス戸の赤い灯りが優しい深夜
ひぐらしひなつ)存在の軽さを思う事務室のストーブ青く燃える朝には
(みち。)事務員が配る個性をとりに行く放課後の窓やさしい西日
077:針(79〜104)
   (おとくにすぎな) 九時二分ゆびさす針を袖口にアップリケして見送りにゆく
   (村上はじめ)秒針が真上に来たら話そうと壁の時計を見つめる 虚空
079:芽(76〜100)
   (末松さくや)なにごともなかったはずの庭の朝さるすべりには花芽がついた
095:誤(51〜75)
(ふしょー) 出逢いから予想もしない誤作動で腕が勝手に抱きしめた恋
(星桔梗)正誤表あの日の彼に届けたい傷つける気などなかった言葉
(原田 町) 判断をつねに誤るわれなると積乱雲の空を見ており
(紫峯) 言わざりし言葉あるゆえ生む誤解言いしゆえ生む誤解もありて...
(鈴雨)助動詞の誤りのまま諳んずる文いとおしき初恋の春
096:器(52〜76)
   (五十嵐きよみ) もう二度と鳴らぬ楽器が身の内のいちばん深い暗がりにある
   (びっきい)すみません、「鈍器のようなもの」ってヤツ、こちらの店で売っていますか?
   (佐藤紀子)受話器より聞こえる孫の笑ひ声 今日の私は性善論者