題詠百首選歌集・その53

 投稿もそろそろペースが上がって来るころかと思うが、目下のところまだその兆しはないようだ。
            選歌集その53


022:レントゲン(204〜228)
  (あいっち) 嫉妬とか未練は写りませんように大きく吸ってレントゲン前
  (林本ひろみ) この胸のうちを見通すレントゲン秘めた想いは小鳥のかたち
  (橋都まこと) 安心しておやすみ君の見る夢はレントゲンには写らないから
026:垂(195〜219) 
  (橋都まこと)背伸びしてバランスをとる 垂線は思ってたより少し前寄り
054:虫(139〜163)
   (わたつみいさな。) 気がつかぬ間に虫の声がしてしらないうちにまためぐる月
  (ひぐらしひなつ)磔刑の翅乾きゆく虫たちの部屋を包んで欅が繁る
  (新藤伊織)まっくろい波をただよう夜光虫をすくい手中に星座をつくる
  (寒竹茄子夫)虫食ひの林檎をめぐる豊穣の時をもとめてナイフを立つる
055:頬(140〜164)
  (瀧口康嗣)冷たくて小さい顔の弟を頬張ったまま冬が輝く
  (水須ゆき子) 朝の窓あければ透ける影ありて木春菊に頬紅をさす
   (わたつみいさな。) 触れられるためだけにある右側の頬を今夜はどこに捨てよう
  (黄菜子)酔うほどに頬をすり寄せ来し父のダンゴッパナをわれ受け継ぎし
  (村本希理子) 頬杖の腕を変へをり 人間に人間の皮膚があるといふこと
056:とおせんぼ(134〜158)
  (みち。)逃げるため吐いた言葉が目の前に整列をしてとおせんぼする
  (わたつみいさな。) まわり道してもまっすぐ歩いてもとおせんぼするあたしの記憶
  (黄菜子)緩慢な死に向かいゆく余生にもとおせんぼする愛憎のある
069:カフェ(101〜126)
   (萱野芙蓉) 散文でこと足りる日々、路地裏のカフェで広げる昨日のレ・ゼコー
  (岩井聡)たそがれのインターネットカフェに居てチリの夜明けとつながっている
  (新野みどり) クラシック流れるカフェで文庫本開きひとりの昼は過ぎ行く
  (幸くみこ)カフェからは板チョコみたいなビルの窓 あそこのひと粒ビターと決めて
  (みあ)もうとうに冷めてしまったカフェ・オ・レを飲みほせぬまま秋がはじまる
070:章(102〜126)
  (萱野芙蓉) 楽章は樹木のあひを流れたり言語なき生うつくしからむ
  (睡蓮。) 恋という曲の最終楽章で聞こえ始めたウェディングベル
  (水須ゆき子) 詰襟の腕に喪章はなお余り片刃のごとき甥の顎先
080:響(78〜102)
  (みなとけいじ)トンネルの声の響きを懐かしむ人がそのまま影絵となりぬ
  (野良ゆうき)砲声を宇宙(そら)に響かせこの地球(ほし)は同じところをまわっています
  (今泉洋子) 玉響(たまゆら)と子の名付けたる合唱のCDを手に子は卒業す
081:硝子(78〜103)
  (彼方)灼熱の硝子は姿を変えながら試す視線で創造主見る
  (岩井聡)落魄のわけを硝子に書きかけてそのあやふやに歪む新宿
  (松本響) 空色の硝子をひとつ飲み込めば私の中に雨が降り出す
  (ぱぴこ) 解決の道は途絶えてばかりいて辞書を投げつけ割る窓硝子
  (今泉洋子) 喫(の)みきりし硝子の碗に横たはる夏の銀河にひかるアンタレス
082:整(75〜100)
  (みなとけいじ)知らぬ間に整頓されたわが部屋の床いちめんに陽は散乱す
  (遠山那由)母親が整えすぎた「我が家」ではくつろぎ得ない私の素足