題詠百首選歌集・その54

 今日の東京は、終日激しい風雨。よんどころない所用で、午前と夜の2回外出し、更けて帰宅の後に、ほっとしてパソコンに向かう。

            
選歌集その54


015:秘密(229〜253)
(浅井あばり)いずこかに秘密のたまる愛おしさ腕から順にみずを拭えば
(彼方) 隠そうとしても唇ついて出る恋の秘密は目立ちたがり屋
(フワコ) ありふれた秘密ばかりを詰めこんで少女のかばんはいつでも重い
(林本ひろみ)秘密など何もないような顔をして画材をさがす午後の草むら
(瀧村小奈生)わたしならまだだいじょうぶあの夏の風のにおいを秘密にしてる...
023:結(201〜225)
(新藤伊織)髪を結う手つきがたどたどしい夏は未遂の恋をかじって眠る
(眞木) 手すさびに結び解きする糸束の赤い糸だけ縺れて切れた
(林本ひろみ)結びたい糸をほどいて風に乗せ伸ばした指をそめる夕焼け
(フワコ) 朝ごとに小さな頭を預けられ子の髪を結ういちごのゴムで
024:牛乳(202〜227)
(彼方)牛乳をマグにこぽこぽ注ぎながら一日分のため息をつく
(大辻隆弘)牛乳を夜半のシンクに垂らしたり水にひろごる白はけぶらふ
(ベティ)ふつふつと琺瑯の鍋煮立たせて牛乳の香のほの甘い夜半
038:灯(168〜193)
(もりたともこ)北向きの部屋を静かな明るさでさっき直った街灯が差す
(萌香) 雨音に心細さを滲ませて落ちては消える遠い街の灯
039:乙女(172〜197) 
  (わたつみいさな。) 捨てるより売ればよかったそれよりもあったかどうかのあたしの乙女
(内田かおり)変身で乙女になった4才はスカートの裾つまんで歩く
040:道(168〜193)
(内田かおり) 道端のたんぽぽ握りおはようの代わりに今朝も差し出す児いて
066:ふたり(106〜131)
(田丸まひる)ふたりでもひとりでもいい下り坂あなたのためになんか泣かない
(方舟)栗喰めど偲ぶ子もなく老いふたり栗の皮むき夕餉の支度
(きじとら猫)ひとりよりふたりの方が淋しいと沈黙だけが語り続ける
068:報(105〜130)
(空色ぴりか)官報に告知されたる破産者に意外と多い「子」のつく名前
(きじとら猫)夏物の服と一緒にたたみ込む報われなかった想いをひとつ
071:老人(102〜130)
(水須ゆき子) 穏やかに老人臭は籠もりたり体育館を叩く秋霖
(方舟)電車内で席ゆづられる事多く老人の域に素直に入る
083:拝(78〜104)
(末松さくや) ひとつだったあなたとわたしの境界を真っ黒く引く「拝啓」の二字
(ぱぴこ)よく笑う気丈な祖母の仏壇を拝む背中は小さくまるく