題詠百首選歌集・その57

        選歌集・その57


005:並(275〜299)
(あいっち)もう君と椅子を並べてCDを聴くこともなき日曜の午後
(minto)それぞれの思ひを胸に刻みつつ同級生は並んで座る
(大辻隆弘)並列に単2をつなぐときに見き豆電球の底の朱のいろ
(平岡ゆめ) 「人並み」の言葉に揺れる日もありて月の昇りと共に眠らん
020:信号(220〜245)
(あいっち)雨降りの似合う橋なり信号の赤のことさらぼんやりとして
(柴田菜摘子)いくつもの信号の青が滲むのを夜行バスから見ていた真冬
(堀 はんな)赤信号待つ間に開けたメールには君から届いた桜の画像...
(透明)去っていく背中が遠くなっていく赤信号に安堵している
(minto) 里山の時間の中に信号はなしゆつくりと水車はまわる
041:こだま(163〜187)
(内田かおり)ふと視線投げればこだまに返り来る伝えることがあるという目が
(林本ひろみ)胸の奥ひびくこだまを聞きながら走らせていく夜の自転車
(大辻隆弘)わたくしはこだま、あなたといふ谷の深みに幾度となく訪れて
044:飛(162〜186)
(遠藤しなもん)もうダムに沈んでしまう学校に「飛翔」って名のオブジェがあった
(Harry) 目の中を飛ぶ蚊の二、三を友としてパソコン画面にけふもま向かふ
(寒竹茄子夫)飛行機の空飛ぶ音をゑがかむと白き絵筆を洗へる五月
(内田かおり) タンポポの綿毛飛ばしてその行方見ている眼に映る風あり
075:打(106〜134)
(幸くみこ) 西口で声かけそびれた父さんの鳥打帽をつつむ夕焼け
(みち。) うつむいた顔を見るのがいやでただひたすら花火を打ち上げていた
(方舟) 旧友の集い来たりて酒を酌む夕餉は手打ちの蕎麦でもてなす
(かっぱ)打たれ強いことが取り柄とわらってたきみが振りむかない化学室
内田誠)群青の深さを競う花火師が打ち上げている夏の切なさ
(癒々)ぱらぱらとワープロ打つ音やさしくて背中合わせでほだされている
076:あくび(105〜130)
(松本響)あくびから始まる夜がありましてアンドロメダに会いに行きます
(水須ゆき子) 月曜の猫はいっそう眠たくて あくび、雨音、おうちが燃える
(みち。)この波にのまれていない確信がなくて無理やりしているあくび
(Harry) 陽だまりにかぎろひ立ちて春の日につねより長き子猫のあくび
内田誠)あいうえお順にあくびで満たされてゆく教室がいま春になる
078:予想(101〜126)
 (里坂季夜) 予想より遅れたぶんを修正し優勝セールのレイアウトひく
(斉藤そよ) コスモスの花に朝露はじかれて予想どおりにすすむ かたむき
(みあ) ゆうぐれは予想どおりに訪れて今日を印した傷痕かくす
079:芽(101〜127)
(萱野芙蓉) 枯れゆくも芽吹くもおなじあかるさでブラウスのうち風は流るる
(Harry) ふるさとを遠く離れしアテモヤのとまどひながら鉢に芽を出す
(田丸まひる)ふれられた場所から芽吹く熱にまだ追いつけなくてきしむ動脈
(睡蓮。) 恋の芽がふくらむような夢を見て乙女に返る朝日の中で
(みあ)糸電話の糸の先には発芽した音だけ残す抜け殻がある
091:砂糖(75〜104)
(野良ゆうき)スプーンの上で溶けゆく角砂糖大きく傾(かし)ぐ刹那もありて
今泉洋子) 真白なる砂糖奮(ふる)ひて君がためケーキ焼きたるとほき極月(ごくげつ)
(かっぱ) どうしても溶けぬ砂糖のひとつありことばをつかいそこねたカフェで
093:落(75〜99)
(素人屋) 落合の改札口に消えた日を記憶の中にもう探さない