題詠百首選歌集・その65

   昨日が最後の週末なので、在庫がどっさり貯まるかと思ったのだが、それほどでもなかった。今日になってようやく、いつもの勝手なルールで選歌集をまとめる数(25首以上の題で10題)に達したというペースだ。残るところ1日半、これからどうなるのか、楽しみなような、ちょっぴり怖いような心境だ。次回は締切り後にまとめてということになるのかも知れない。


      選歌集・その65


003:手紙(284〜308)
(あいっち) 手紙なら祖母に明かせる思いあり太く大きく二枚に綴る
(椎名時慈)幸せに暮らしていると未来から手紙が届く今日はそんな日
(minto)手紙には書けない事が多すぎて溢れる思ひ コーヒーを飲む
(久野はすみ) 還暦を過ぎたあなたの手紙から駆けだす蒼い少年の影
030:政治(207〜233)
(林本ひろみ)政治家のゆがんだ笑顔が次々と映しだされるまた同じ朝
(象と空) もう三日政治の話続けてる秋の夜長の焼酎匂う
(杉山理紀)政治的圧力をかけ渾身で先に残ったケチャップしぼる
085:富(137〜161)
(まゆねこ)富士山の見えなくなりし富士見坂桜古木の花の咲き継ぐ
(大辻隆弘) ああ富貴たる者なべて美しう気高くあれな貧たるもまた
086:メイド(133〜159)
(瑞紀)陽だまりにハンドメイドのストールを羽織る老女のしづかなる午後
(夜さり)人魚(マーメイド)はこゑを捨てても尽くしたり命を賭けし波のうたかた
(ことら) 武装せるオーダーメイドを脱ぎ捨てる度に上手になってゆく嘘
(ケビン・スタイン) メイドインチャイナのタグをはがしつつアメリカ土産鞄に入れる
(大辻隆弘) メイド・イン・オキュパイド・ジャパンの文字を撫づ骨の白さの白磁の底の
087:朗読(132〜160)
(幸くみこ)色白の転校生は朗読を私たちとはちがう言葉で
(癒々)あたたかな日には天からさわさわとあたたかな色の朗読が降る
(林本ひろみ)朗読の声がちぎれて消えていく閉ざした窓のむこうの夕闇
(ことら) 図書司書はエプロンのまま朗読す 笑顔で死せる狐の話
089:無理(129〜154)
(夜さり)意思表示せまる声音が裏がへる無理を承知のまなじりの紅(こう)
(橋都まこと)無理しすぎ壊れてしまった魂の容れものだけが無事な理不尽
(ことら)無理数の頁を開く左手の薬指ごと奪ってあげる
090:匂(131〜155)
(瑞紀)夏服にシダーウッドの木片をおけば来夏はやさしき匂ひ
(里坂季夜)霧雨のやんだ日比谷に降り注ぐ甘い匂いのひかりの軌跡
(林本ひろみ) 夕焼けの記憶の底にある匂いパン工場のジャムパンの風
(きじとら猫)おひさまの匂いにそっとくるまって秋の夜長を待ち受けている
(まゆねこ)もう一つ家があるらし帰りきし猫は乙女の匂いを纏う
093:落(125〜150)
(瑞紀) 落照に片翼染めし旅客機の徐々に空へと向かふ傾き
(堀 はんな) まだ青いブーゲンビレアの葉が落ちて夕べの風の強さ知る朝...
098:テレビ(104〜131)
(まほし)戦争をテレビゲームと思う子の背中に赤いあかい夕焼け
(橋都まこと) 路地裏を行けば洩れくるテレビの音 ここにも寂しいひとの居るらし
今泉洋子)「テレビでは」と陽水歌ひき彼の日まで忘れし傘を探しにゆかむ
内田誠) 寂しさが南下してくるスピードを知らせるテレビの白いテロップ
099:刺(104〜132)
(斉藤そよ)つまようじ刺されてまわる独楽となり どんぐりずむをととのえている
(林本ひろみ) この耳に刺さる言葉をうけとめる携帯電話にぎりしめつつ
(堀 はんな)バラの棘刺したる記憶も痕もなく痛み残して秋霖の朝...